夜

左様ならの夜のレビュー・感想・評価

左様なら(2018年製作の映画)
4.1
『 傷つく覚悟もなかったくせに。』

細くのびたまつ毛の上に、ひかえめに浮かぶピンク色のアイシャドウ。まるでまぶたに星が降ってきたみたいだと、いつも思う。


「手伸ばして縋っていいから、頼むから俺だけにして。その手を取るのも握るのも他のやつじゃなくて、俺がいいんだよ。謝らなくていいから、逃げずにこの手だけは握ったままでいて。」

この夏、わたしを愛してくれた彼がくれた言葉だ。隣で肩を並べて、星の綺麗さだとか、互いの危うさだとか、ちいさなしあわせそっとを囁きあってはいつも泣いていた。夜は、居場所をうしなったわたしたちの、唯一の世界だった。わたしの瞳のいろやえらぶ言葉ひとつひとつをやさしく掬いあげて、丁寧に愛してくれるひとだった。

彼のあたたかさに縋りながら、わたしは彼女を忘れられなかった。もう少しで別れてから一年が経つけれど、思い出や愛はぬくもりをのこしたまま、これからもきっとこころの奥で生きている。

『傷つく覚悟もなかったくせに』

こんなにすきだったのに、こんなにすきなのに、どうしてだろうね。愛するひとをまえに、わたしは何ひとつ手放せなかった。彼女は苦しそうだった。わたし以外いらないと泣いては目を腫らしていた。すべてを欲しがる彼女に、すべてを差し出してくれた彼女に、わたしのすべてを差し出すことはできなかった。こわかった。永遠をくちにするのはいつか終わってしまうことが分かっているからでしょう。わたしは、そうだよ。永遠は神さまとおんなじようなものだと思ってる。そっと願うだけで、叶わないと知っている。

『「好き同士でも、どうにもならないことがある」なんていう台詞は、どうにかしようと最善を尽くした人間が言えるのであって、あなたが口にしていい言葉ではないんだよ。私たちはあなた次第で、どうにかなれたんだよ。』

わたしの愛する友人が呟いたツイートで、きみを思い出した。きみはいつも『好きなだけで、好きって気持ちだけでどうにかしたいんだよ』と言っていた。わたしは『きっとどうにもならないよ』と諦めていた。あの日きみが言った言葉をわたしが信じていたのならなにか変わっていたのかなと、最近よく考える。わたしはこの友人を見るたびきみを思い出して泣きそうになるよ。同時につよい愛を前にして信じることが出来なかった、逃げ出してしまったわたしを、不甲斐なくおもう。いまわたしの傍にきみがいないことはきっと運命で、必然だ。

親愛なるきみへ、きみが溺れてしまうくらいの愛に包まれますように。世界一素敵なきみが、きっとだれよりもしあわせになりますように。わたしのことを思い出す日は二度とありませんように。愛しています、この映画のエンドロールとともにすべて今日で、左様なら。
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