もりあいゆうや

凪待ちのもりあいゆうやのレビュー・感想・評価

凪待ち(2019年製作の映画)
3.5
正直観る前は、タイトルもポスタービジュアルも、惹きつけられるものではなかったけれど、さすが飛ぶ鳥を落とす勢いの白石和彌作品だけあって、観る者に様々な感情を湧き出させるヘビーな作品に仕上がっていた。
やはり映画はタイトルやビジュアルの雰囲気で敬遠するものじゃないね。

キャストは脇を固める人達含め、みんな良かった。
まず主演の香取慎吾。国民的男性トップアイドルである慎吾ちゃんが、ギャンブルに溺れて、酒を飲み、暴力を振るう、そんな描写が直接的に続く作品に出ること自体、この作品の一つの売りではあるが、狙い通りたしかにインパクトがあって良かった。役者の持つイメージを覆す成功例。

逆にリリー・フランキーは、鑑賞者がある程度観ながらも、過去の作品からのイメージが引きずられて、キャラクターの裏を考えたりしてしまう。フラットに観られない辛さがある。
しかしリリー・フランキーは相変わらず恐ろしいほど演技が上手い。
白石和彌監督がリリー・フランキーについて、
「自分の人生を含めて表に出せる稀有な人」と評していた。
そして「日本映画界はリリー・フランキーに頼りすぎ」とも言っていたけど、頼りたくもなるよなぁ、と思った。
初号試写の後に香取慎吾が「とある場面(ネタバレ防止の為に伏せますが、映画を観た人なら想像つくと思います)のリリーさんの表情が頭から離れない」と言っていたらしいが、たしかにその場面のその顔は、特に強調して表情のアップなどを撮ってはいないはずなのに、強烈な印象に残る。この場面のリリー・フランキーは、作品を観た人と語り合いたい。
監督が言うには、この場面の表情を÷パターン用意していたらしい。恐ろしい!

俳優名は失念したけど、石巻の印刷会社の同僚のオガタ役の人がすごく良かった。
本当にクズ。
もう顔がそういう顔してる。
弁当を下品に食べるシーンから、走り過ぎてゲロ吐いちゃうシーンまで、ハマり役過ぎた。
白石和彌監督は、こういう底辺の人間の描き方が本当にお上手ですね。

再生や復興がこの作品の大きなテーマだけれども、結局作中で面白かったのは、暴力シーンや社会的底辺の人達の描写。
香取慎吾が拳を振るうシーンがいくつかあるが、全部良かった。スカッとした爽快ささえ感じるところもあった。

ちょっとやり過ぎ、くらいのものをあえてやる白石監督流石だなと思ったのは、
チョコチップクッキーにハエがたかるアップのカット。
チョコチップクッキー(またこれが見たことのない不細工な形をしている)の周りを、1匹のハエがうろちょろしている。そのチョコチップ自体がハエのようにも見えるが、実際は1匹だけ。そういう事実に何気なく見ていると自ずと気付かされ、気持ち悪くなる。
しかも羽音をこれでもかというくらい際立たせてる。
ほんの数秒の、ストーリーには絡まないカットだけれども、こういうところに監督の力量というものが出るのだなぁと思った。



P.S.
ロマンチカ洋酒店ってなんだ⁉︎