ローズティー

ドクター・スリープのローズティーのレビュー・感想・評価

ドクター・スリープ(2019年製作の映画)
3.5
2017年に「IT(チャプター1)」の映画版が世界的に大ヒットしてから、今月初日に「IT(チャプター2)」、くしくも続けて下旬に本作、来年には「ペット・セメタリー(リメイク)」と映画界はちょっとしたキングラッシュだ。

スティーブン・キングの小説の映像化は難しいと、かなり昔から自分は思ってきたし、実感してきた。
多くの作品が映画化・ドラマ化されてきたが何故かチープなB級感がぬぐえないものばかり。
それは何故だろう。
たぶんに、苦心して書かれている登場人物たちひとりひとりの内面が描けなていないからではなかろうか。
キングの作品の怖ろしさは一級品だが、その恐怖へと向かう登場人物たちの心理描写、状況描写が実に緻密に繊細に描かれているからこそ私たちはあたかもそこにいるかのように感じ、恐怖をまのあたりにして戦慄するのだ。

ホラー映画の金字塔の一つとして、あまりにも有名なスタンリー・キューブリックの「シャイニング」は、昨年のスティーブン・スピルバーグの大ヒット作品「レディ・プレイヤー1」のなかでも重要なキーのひとつとして引用された。
それほどキューブリックの「シャイニング」は映像的に人々に強い印象を残している。
ただし、原作者のキングは「キューブリック版シャイニング」に猛烈に立腹し、後年自身が指揮を執ってテレビドラマ化して『訂正』した経緯がある。
端的に云うと原作では狂気に侵されていくジャック・トランスは、息子のダニエル・トランスを深く愛していたという物語の屋台骨を、キューブリックがちらとも描かなかったからだ。
キングの怖ろしい作品のなかには根底に“愛”がある。
愛があるからこそ失う哀しみ、得られない哀しみなどがあり、愛のために生きようとし、命を投げ出す覚悟も、おろかさも生きてくるのだ。

そんな経緯があった「キューブリック版シャイニング」であるが、今作をキングは珍しく続編としてほめ讃えている。
うかつにも観終わるまで素直にキングの言葉を信じてしまっていた。
観終わってようやくキューブリック版シャイニングの「続編」として今作をとらえていたとわかった。年を重ね、キングはひとつ大人になったようだ(笑)

さて、「キューブリック版シャイニング」の「続編」としての今作。
冒頭の懐かしの不穏なBGMから観客を在りし日に引き戻し、ジャック・ニコルソンやシェリー・デュヴァルによく似せた役者と撮り方で再現性とつながりを持たせている。
映像的にもハラハラと緊迫する物語展開にも、キューブリックにもキングにも敬意をはらって丁寧に作られていると思う。
トラウマを抱え克服できぬまま成人し、さ迷うダニーをユアン・マクレガーが好演し、「ミッション・インポッシブル:ローグ・ネイション」でブレイクしたレベッカ・ファーガソンが華を添える。
ホラーとは云いがたいが、全編なかだるみのないサイキック・サスペンス・エンターテイメントに仕上がっており、「ドクター・スリープ」は、キューブリック版シャイニングとテイストは違うものの、ひとつの物語の着地点を目指した。
個人的にダニーの救い手になるクリフ・カーティス演ずる友人ビリーの存在がよかった。ディック・ハローラン、アブラ同様に、彼もまたシャイニングの導きといえよう。
作中わりとサラリと描かれてしまったが、ダニーが何故“ドクター・スリープ”と呼ばれるのか。誰もが一度は思う終末への問いと恐怖心へ、今作は温かなまなざしを向けている。それはとてもよかった。

おしむらくは──シャイニングに続いて原作とは違った展開になるのは、もうお約束なのかもしれない。


試写会に参加させていただきまして誠にありがとうございました。
 
 
 
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