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海獣の子供のsghrytのレビュー・感想・評価

海獣の子供(2018年製作の映画)
1.0
「ゴージャスな駄作」

原作ファンとして鑑賞日を指折り数えながら待ち望んだ当日、私はやさぐれながら映画館を後にせざるをえなかった。

原作は怖い作品である。だが、本作ではその怖さが完全に解毒されている。毒にも薬にもならない。確かに映像は綺麗だが、それがどうしたというのか!

作品には、作者の心臓が脈打ちその血が流れていなければならない。しかし、本作には血が通っていない。そもそも心臓がないからだ。その意味で本作はとても綺麗な死体にすぎない。

ある作品を裏付けるものは作者の確信である。情熱を込めた作品の底には必ず人間がいる。作品の底では、朧げながらでも、必ず人間の輪郭に触れられる。そこに誰もいないならば、その作品に価値はない。本作の底には誰もいなかった。

「おい、ちょっと待て。期に及んで、まさかそんな余計な一言まで言うのか?やめろ、やめてくれ!もうこれ以上、『海獣の子供』を傷つけないでくれ!」と願っていた矢先に、案の定、致命的に余計な一言を耳にしたラストシーンでは、もはや笑わざるをえなかった。ハハハハハ。

陳腐な綺麗事など誰にでも言えるが、誰にでも言えるようなことならば、わざわざ言う意味はない。仮に作者が明確なメッセージを持っていても、それをそのまま口に出すなど三流もいいところだ。何か物狂おしいものを持っている人間は、それをそのまま口に出しても伝わらないから、わざわざ作品などというものを作らざるをえない手間を強いられるのである。

結局、有名な歌手と作曲家、夏らしいテーマと綺麗な映像で若者を釣ろうとした下心が透けて見える本作は、ゴージャスな駄作と名付けるしかない。

そりゃ俺だって楽しみにしてたよ!ええ、そりゃもうワクワク期待に胸を膨らませていましたよ!映像のクオリティはめちゃくちゃ高いし米津玄師の主題歌だって良いと思ったよ!だけどさ、これ『海獣の子供』じゃねえもん!どんだけガッカリしたか!

「お父さんはヘビという生き物が好きなんだ。ヘビは強くて怖いんだぞ。お前はまだ見たことがないだろう。今度、動物園に大蛇が来るから見せてやる」とドヤ顔で請け合っていたオヤジが意気揚々と動物園に子供を連れていったら想定外!大蛇の脱け殻しか飾られていなくて「ふーん、ヘビって全然怖くないね。白い皮は綺麗だけど全然動かないじゃん。お父さんはこんなのが好きなんだ」と首を傾げられたときのオヤジの気持ちを分かってくれよ!

「話が違うよ」という目で俺を見るな!俺だって同じことを思ってるんだよ!俺はお前を裏切ったかもしれないが、俺だって裏切られたんだよ!そうしたら苦し紛れに「違うんだ!これは本当のヘビじゃないんだ!お前だって本物を見ればきっと好きになるはずなんだ!」と言うしかないじゃないか!

頼む!原作を読んでくれ!こんなんじゃないんだ、『海獣の子供』は!
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