乳酸菌

アルキメデスの大戦の乳酸菌のレビュー・感想・評価

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
3.7
人によっては脊髄反射的に「この映画は国粋主義的な極めて右寄りの危険な映画だ!」と唱える人が必ず出てくると思われる危険な素材を扱った作品、それに敢えてチャレンジした山崎貴監督はこの映画に関しては難しい舵を取り、結果的に成功したと感じた。

上記のように捉える人が何故出てくるか? 戦艦大和をある意味(バイアスの掛かった見方をする人は)先の大戦で軍国主義の象徴的な物と考えていると思うからだと、しかし決してそうでは無く、ラスト明かされる、戦艦大和を作った本当の意味、それは極めて回りくどい考え方だが、結果的に理にかなっている結論を導き出している、それは正に先見の明があってからこそ、この意味の無い日本の国力に見合わない、結果的に「沈む」と既に分かってこの超大型戦艦を建造した、結論に達するのは、現代のもどかしい停滞している国内政治情勢に照らし合わせると重なる部分が大きいと思う。

第二次世界大戦前夜、未だ旧態依然とし、あからさまに思考停止した海軍上層部に対し、山本五十六は異を唱える、これからは空母機動部隊の時代だと、大艦巨砲主義はもう過去の遺物となっている、そう相手を説得しようにも、未だ精神論的な日露戦争の日本海海戦で止まった考え方で上層部止まっている。これでは日本は確実に次のアメリカとの戦いに確実に敗戦する、山本五十六はせめてアメリカと講話を結ぶ、そして戦争を終わらせる、そう先を読んでいた。その為には航空機で相手の戦艦を叩く空母は必須、その為の予算を何とか勝ち取ろうとするが、例の大艦巨砲主義派に押し切られそうになる。

そこで、建造経費の不備を突いて、相手側に有利な現状を打破すべく、とにかく数字にめっぽう強い櫂直という名の世間のレールからドロップアウトした天才数学者に超大型戦艦を建造する経費の算出し、相手の矛盾を突く戦法に出ることとなり、しかし、非常に短期間という無理難題を押し付けられてしまうが、そこからのこの映画はテンポが良い感じ、2時間20分の長尺を感じさせない出来具合はとても好感が持てる。

物語自体は数日間のお話、その密度を観客にリアルタイムかの如く体感させてくれる脚本の妙。これはなかなか巧く作られている、それはこの作品の重要なファクターとなっている。

とにかく、体感時間の短さ、物語自体は地味なほぼ何も無い資料から、戦艦大和の構造を思考するという、ある意味地味で単調になりかねない原作から、見事に語弊があることを承知で言うなら、とてもエンターテイメントとしては質の高い出来具合となっていると思う。

物語として、魅力を感じる人物達が繰り広げる、この物語を駆け抜ける疾走感は嫌いでは無い、むしろ好感が持てる。例えこの映画自体は架空の物語、フィクションだとしても、実際に戦艦大和は不幸にも建造されてしまう、が、その真の意味を知った櫂直の思いは胸中さぞ複雑な思いだっただろう。

彼が各所を奔走して限られた時間と戦いながら導き出した数式は、しかし決して無駄では無かった。この戦艦は日本に不幸をもたらす、が、その不幸が結果的にこの物語が言わんとしている事へ収束していくストーリーテリングは好感が持てた。

もどかしい、現実の壁、それを決して諦めず、強い意志を持ってして乗り越えようと、その先に見える希望を達成する為、正に「不可能を可能にした」櫂直の数式は、価値のある物だった。

先の大戦を扱った非常に重厚な、濃密な鑑賞時間を堪能できた。
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