Riiisa

アルキメデスの大戦のRiiisaのネタバレレビュー・内容・結末

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

* 数学で戦争を止めようした主人公・櫂正が「数字は、嘘をつかない。」と、会議ぎりぎりまで必死になって不正を暴く姿はとても痛快だった。

* しかし、この不正の理由は軍事費や造船予算が公表されてしまう現状で、敵国に巨額の大戦艦が日本で作られているという情報が他国に漏れて警戒されるための対策だったのだ。「敵を欺くには、まずは味方を欺かなければならない。」櫂を含む民間人には到底辿りつかない思考である。

* さらに、平山は櫂だけに真の理由を伝える。時は1930年代後半、この戦艦が造られようと造られまいと、戦争は近いうち必ず起こりうると誰でも簡単に想像がついた。日本国民は日清戦争・日露戦争とどんなに過酷な戦況になろうとも最後の1人になるまで諦めずに戦ってきたが故に、日本国民は負け方を知らなくなってしまった。
櫂は、この圧倒的な存在感を示す大和と名付けられた巨大戦艦を戦力の象徴と捉え、日本国民の戦意を盛り上げ、戦争への道へと後押しする存在になると危惧していたが、平山はこの戦艦を人々の憑代(よりしろ: 神霊が現れる時に宿ると考えられるもの) として、熱狂させ、期待させて、派手に大国に大破させる事で、日本が滅ぶ前に救おうとしていた。

* 大和の船出を見送る櫂の目には、ただ1人真実を知りながらもどうにもできないもどかしさ、悔しさと悲しさが込められた涙が溢れ、近い将来起こる日本の敗北を予期していたのだろう。しかし、皮肉な事に乗組員を含めた全国民は希望に満ち溢れた眼差しで大和に熱狂しているのだ。歪んだ世界が間違いなく当時の日本にはあったのだと実感した。
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