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岬の兄妹のKAJI7のレビュー・感想・評価

岬の兄妹(2018年製作の映画)
3.7
残酷だが、目を背けてはいられない現実。

【あらすじ】
とある海辺の街に、自閉症の妹「真理子」と2人で、貧しく暮らす「良夫」。貧困に喘ぎながらも正しく生きようとする良夫だったが、ある日、真理子が売春で金を得たことを知り、激怒する。
しかし、とうとう持ち金が底を尽きた良夫は、モラルと葛藤しながら、恐ろしい決断をくだすことになる---


まるでシチリア文学のような、現実をありありと描く筆運び、めちゃめちゃ良かったです。(映画で言うなら、タヴィアーニ兄妹の『カオス・シチリア物語』(1984)とかが典型的かな…)
それこそ、ピエトロ・マスカーニの短編のような冷酷な暴力表現と、目も当てられないような選択肢のない生活描写。
観ていてとても苦しかったですが、この映画が捉えていたのは、目を背ける訳にもいかない、常に私達全員の背中にベッタリと張り付いている現実の姿でした。

我々が生きる「今」とは、多くのモラルやルールが人々を守っている世界です。
もしも『パージ』みたいに、これらが無い世界だったら、少なくとも僕は今までのうちのどこかのタイミングで死んでいたことでしょう。
だけど、モラルやルールを破らなければ、犯罪に手を染めなければ、生きていけないって人は、絶対に居ます。
それは昨日の彼女らかもしれないし、今日の彼らかもしれないし、明日の僕らかもしれません。

でも、どうしようもない現世に絶望してるからといって、「この人生以上に高価(硬貨)な死を望む」なんてジョーカーみたいにみんながみんな言える訳ではないです。
誰しも違った希望を抱いているように、誰しも違った絶望を抱いているから。

安価でも、生きていることにはきっと意味はあります。
たとえ意味なんかなくても、それが死ぬ理由にはなるとは限らないはずです。

そう確信させる映画作品でした。
とても考えさせられる秀作です…。

にしても、兄妹役2人の全てを捧げるかのような演技が本当に素晴らしい。
兄妹役は、松浦祐也さんと和田光沙さんというお名前でした。
是非今後もフォローしていきたい実力のある俳優さん達でした…!
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