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岬の兄妹のmのレビュー・感想・評価

岬の兄妹(2018年製作の映画)
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この題材に真正面から挑んだ気概は評価したいし、妹役の和田光沙の『体当たり』だけではないリアリティのある演技、そして美術とロケーションが素晴らしかった。「万引き家族」に続いて日本映画があまり目を向けない貧困層に目を向けた事は価値ある事だと思う。兄妹が飢えのあまりティッシュを食べて「甘いね」と言い合うシーン等の可笑しみと苦味の同居したテイストも良い。

ただ何故だろう、上手く言葉にする事ができないのだけれどこの映画をそこまで傑作だと思えなかった。決して悪い映画ではない、良い映画ではあるのだけど・・。


その理由を自分の中で色々考えてみて、まず思い当たったのは兄の過剰さだった。
貧困の真っ只中にいる兄妹は、妹は知的障がいを持ち、兄は片足に障がいがある。その兄の片足の障がいの設定は余計というか『要素の過多』に近く、やや過剰だったように思う。
同様に過剰なのが兄役の松浦祐也の演技で、貧困から来る卑屈と開き直りを上手く体現しているのだけれど至る所でオーバーアクトが鼻につくのが残念だった。
でも日本でこの役が最も合うのは松浦祐也だというのはよく分かるし、個人的には彼にようやくスポットライトが当たって良かったとも思う。

兄の妹への愛情の見えなさも気がかりだった。
最初の『冒険』後の気遣うのではなくとにかく怒鳴る反応に顕著なように、全体的に兄は妹の事を心配はするけれどそれが愛情から来るものに見えず『面倒かけるなよ』という自分本位の感情のように見えるのだ。長く2人で貧困の中で生きていれば、余裕も無くなりそうなってしまうというのは分かるけれど・・
だからラストの妹の表情は良いのだけど、それを受けた兄の表情にもう少し違う感情(妹への慈しみだったり)が浮かんだ方が良かったのではと思う。
映画の軸となるべき兄妹愛が弱く見える分、食や性という動物的な欲求の方が前面に出ていて、まあそれが狙いなのだろうけど。こちらが映画に求めるものが違ったのかもしれない、そんな綺麗事を求めていない映画だろうから。

妹の欲望・感情が短い描写ながらも描かれているが、それが男性目線でこの題材・物語を描く事の免罪符になっているようにも思えてしまう。



所々で演出にムラがあるのも気になった。特に高校生達の描写はあまりに嘘臭過ぎる。



観客の感情移入などハナから拒絶して日本映画に今一度今村昌平映画のような生臭さ・泥臭さを、という心意気は素晴らしいのだけど、何かもっとその先を、と思ってしまう。

ただ個人的に感心した描写が一つあって、それはネタバレになるのでコメント欄に書きます。
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