靜

ハンナ・ギャズビーのナネットの靜のレビュー・感想・評価

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スタンダップコメディというものに馴染みがなくて、テラスハウスの住人がやっていたから初めて知った。彼のネタはブラックが効き過ぎてもはや暗闇で、困惑させられるものだったので、これが初めてのスタンダップコメディ鑑賞と言っても差し支えないかと。

原語で聞き取る能力もなければ、ジョークが成り立つ文化的土台にもいまいちピンとこない。最初は馴染みがなくて身構えていたせいか、どこで笑っていいのか分からずしばらく真顔のまま鑑賞していた。
ハンナの機知に富んだ話の振れ幅に心がほぐれ、だんだんと顔面に笑みが宿ってきた。それにしたって観客が本当によく笑う。げらげら笑う。こんなに直球で笑えていいな。わたしも肩の力を抜いて、もっと反射神経を研ぎ澄ませて笑いたいものです。

ハンナが軽い調子で出したジョークは、後々に何度か再登場してその度に少しずつ色付けの変更がなされていく。さして重要でもなさそうな、なんてことのないジョークのような顔色だったものが、後半になるにつれ思いもよらない悲痛な告白に変わる。
そして、わたしは咽び泣いた。
こんなにも揺さぶられるとは思わず。揺さぶられたところから、血が吹き出るようで痛い。痛いけど、わたしは「あの時、痛かった」と口にすることが出来る。黙って耐えて、自分を歪ませることはもうしなくていいのだと思った。痛いけど、なんて爽快なんだろうかと驚きだった。

テラスハウスの彼がスタンダップに感銘を受けたと話していたのにも、今ならすごく頷ける。
靜