YukiSano

ナイチンゲールのYukiSanoのレビュー・感想・評価

ナイチンゲール(2019年製作の映画)
4.0
オーストラリアの略奪と陵辱の歴史を、全ての人類の恥として昇華した作品。

白人女性がレイプされ、家族を奪われる所から始まって、その後は入植者達が先住民を蹂躙する様が描かれていく。

胸糞展開の中に神秘的なアボリジニの儀式や人間的な暖かみと尊厳を奮起させる演出が施され、復讐劇でありながら真逆の感情も生まれていく。

主人公は奪われ続けていた人生のはずが、白人であるというだけで略奪者側でもあるという事実。アイルランド女性からの視点とアボリジニからの視点が交わり交差する時、復讐心が消え失せる皮肉。だからこそヒロインはウサギの命さえ奪うことに躊躇し、罪悪感を覚えてしまう。

何もかも奪われた中で、最後に主人公達が略奪する側へと立場を逆転する時に、それまで彼らを包んでいた大自然が全てを平等に受け入れていたと悟った。

誰もが略奪者となって命を奪っても、森も星も空も太陽も魂を受け入れてくれる。

こんなにも命がゴミのように扱われているのに、こんなにも生命の偉大さを感じるとは思いもよらず。

同じような内容の「レヴェナント」よりも遥かに濃密で深い味わい。今の社会にも通じるヒエラルキーと分断を凝縮した上で、それを包み込む大いなる存在を示す。

いつのどの時代にも当てはまる人間の愚かな営みなど、大自然にとっては生命の循環でしかないのだろう。
YukiSano

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