架空のかいじゅう

ROMA/ローマの架空のかいじゅうのレビュー・感想・評価

ROMA/ローマ(2018年製作の映画)
4.6
劇場スクリーンでかかるまで我慢してよかった!!
(配信サイト登録諸々が億劫だっただけ)
近場の劇場が1つなくなるタイミングで、本作のような劇場の集中環境でこそ映える作品が一部劇場での限定公開というのも、いろいろ業界事情を考えさせられます。

キュアロン監督の前作「ゼロ・グラビティ」でシネコンスクリーンいっぱいに広がる宇宙の真ん中に浮いた宇宙飛行士が、舞台演劇でも見ているかのように画面から飛び出して実在してるように見えたのが、自分にとって3D立体視体験の中でも地味ながら一際印象に残ってるシーンです。

なので本作ROMAも、どんなインパクト勝負を仕掛けてくるんだキュアロン!?...何?ネット配信のモノクロ映画だって!?そうきたか流石だねぇ...などとアカデミー賞の時に一瞬思った...かどうか記憶も曖昧ですが、ゼロ・グラビティの後にこんな私的な作品放ってきたことこそが、キュアロンらしからぬというキュアロンらしいインパクトを残しました。そしてラスト手前のあるハプニングが両作品共通してるというのが地味に面白い。

顔は松嶋菜々子が微妙に持ってる芋っぽさを更に強調したような、最近だと「愛しのアイリーン」のナッツ・シトイにも通じるような、「幸福なラザロ」の主人公のように体格1つに作品の魅力が集約されていると言っても過言でないような、そんな家政婦さんが主人公。
実在感があって良かった。まだ詳しく映画のバックボーンを知らないまま書いてますが、ラストのフレームアウトの仕方も、アングルも、爽やかな喪失感というか、彼女だけでなく「この時期の記憶」と改めて決別し、不意に現代に引き戻されるかのような、首が痛くなるほどに見上げた空だけが地続きの時間であるという空虚さが、余韻を引きずります。

人間模様も大変素晴らしいのですが、「空間映画」としても良かった。
その点でゼロ・グラビティと味わいは一緒??
あの、玄関、です。
広めの、居間とも外とも連なる、閉塞感と解放感が同居した駐車場兼ワンコおトイレ。
あそこまで立派なもんじゃないですが、構造的に田舎の祖父の家がまさにあんな感じだったんです。子供たちがガヤガヤ出入りして、自分は男の子だからという理由だけでお客様お坊っちゃま扱いで、同い年のいとこは女だからという理由だけで文句も言わず料理や配膳など台所仕事を祖母に強要させられていた、あの扱われ方の違和感まで甦る。
色を失っている(という言い方が正しいか怪しいですが)というのも、そうした自分の記憶を覗いてる感覚にシームレスに結び付いたので、かなり没入感あった。

定点カメラの首が右へ左へ機械的に動いているような、ゆったりと室内を見回す撮り方にも、古臭くて優しい肌触りみたいなものが加味されて、それは単なる懐古趣味ではなく伝えたい事の伝え方に見合っていて効果的と感じました。

色のせいで情報を受け取るのに普段以上にエネルギーを要することに加え、込められた情報ボリュームが全体通して意図的に過剰なうえ、あえて今白黒でやることにも意味を持たせるような演出も多く見受けられ、気付けばすごく体力使うウトウト鑑賞になりかけました。マイナスポイントではないですが、鑑賞は元気なときに。

チラシもパンフレットも有りませんでしたが、チラシだけでも置いて欲しかったなぁ。
この作品との出会いはここ、Filmarksの中でも目につきやすい「今話題のおすすめ映画」の一覧に、シンプルなタイトルでどこか彫刻のようなキービジュアルが期待作としてドーンと登場したのがキッカケでした。
それからアカデミー賞なども経て、すっかりビジュアルにも慣れて何とも思わなくなった今、劇中で不意にこのシーンが訪れたときの「あ!」感は格別でした。