おりょうSNK

無限ファンデーションのおりょうSNKのレビュー・感想・評価

無限ファンデーション(2018年製作の映画)
5.0
悩みも未来も無限。だから、下地作りは永遠に続くのだ。
これは、ひとり勝手に汚れてしまい、見放されたと勘違いし、人生のいろいろを諦めてしまった大人のための青春映画だった。

「無限ファンデーション」
2019年 日本
@みなみ会館

相変わらず、たいていあらすじも読まずにタイトルとビジュアルの印象だけで観る映画を決めていて、本作はまさにその骨頂。
意味不明過ぎるから気になって仕方ないタイトルだし、女子高生好きだし(おかしなこと言ってます僕?)、上映館がわれらのみなみ会館でしかも1週間限定だなんて、シネコンにひしめくメジャー作品を放置プレイしてでも観るしかなかった。

なんだこの全編に流れている、やばい実験に巻き込まれたかのような緊張感は。
その答えは、上映直前にわずかばかりに仕入れた情報の中にあった。

驚くべきことに、この作品は全編が即興劇。

叩き台の脚本にセリフはなく(パンフレットに掲載されてる脚本が鬼シンプルで本当に驚いた)、場面設定が書かれているのみで、俳優陣は自分で考えて演じている。

だかそれは、いい意味で、演技と言える代物ではなかったのだ。

デザインの才能があるけれど、人付き合いが苦手な主人公・未来が、演劇部の演目「シンデレラ」を手伝うことになる。演劇部のエースがオーディション受けるために出て行く。様々な反応を示し、異常な行動に出てしまう部員も。

その都度都度で彼女たちが放つセリフは、普通の映画だとあらかじめ用意されているそれではなく、中には事前に考えていたものもあるだろうけど、相手の口から飛び出す言葉は予測できないから、まさにその状況に対峙し、変化させ、必死に対応している等身大の女子高生の姿にほかならず。時につたなく、時に無意味で、やたらと冷めていて、やたらと感情的で。そこは、焦り、怒り、諦め、融和の場面が展開される、映画の実験場。

観終えてからパンフレットを読んだところ、部員を演じた女優さんたちは何度もミーティングを重ねて挑んだがほとんどが意味をなさなかったと。観ていてそれが凄く伝わってきた。あ、演劇部のエース役である原菜乃華さん、主演作品「はらはらなのか」込みでかなり気になってます。

主人公を演じた南沙良さんは人付き合いが苦手な設定を最大限に発揮できるよう、ミーティングに不参加だったそうで、特に後半の彼女が演劇部員と対峙する場面の緊張感は特筆もの。「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」の演技が神懸りだった南沙良さん。演技を超えた、おそらく本気で感情を爆発させるシーンと、お母さんとの浴衣シーンの柔らかさによって実力のほどをまた見せつけてくれた。稀有な映画女優としてうまく育ってほしい。

さらに、全編に癒しを与える女の子を演じた西山小雨さん。彼女が歌う歌が不思議な魅力をもたらしていた。
即興劇に目を奪われてしまって歌詞が頭に入ってこなくて申し訳なかったんだけど、次に観るときは歌詞に注耳したい。

即興劇で撮られた異色青春映画。瑞々しくも時に激しい彼女らの姿は、薄汚れてしまってファンデーションも馬油もクソもなくなってしまった大人ほど身につまされる気がした。つまり…言うまい。

'映画の本質は脚本"。それは変わらないけど、本作に限っては正解ではなく、唸らされっぱなしだった。
いかにも用意されたセリフやあざとい決め台詞ばかりの映画の対極に位置する作品なので、興味ある人にはきっと刺さる部分があるはず。そこに興味なければ地獄のような退屈を経験するだけだと思う。

あ、そうだ。EDクレジットの田園風景が異常に美しかった。映画史に残したい自転車シーンだ。
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