YukiSano

ラストレターのYukiSanoのレビュー・感想・評価

ラストレター(2020年製作の映画)
3.6
岩井俊二のシャイニング。
そして自己模倣映画。過去から脱却出来ない男を描いているが、自分のことではなかろうかと勘ぐってしまう。

かつて90年代の岩井俊二と言えばサブカル映画のカリスマであり、日本映画界の希望とまで言われていたが、最近はその頃の威光に助けられている感はあった。

しかし、「リップヴァンウィンクルの花嫁」でついに復活の兆しを見せた。そこで、この自己批評的なラストレターには何かあると思ったら過去に捕らわれた者達の物語だった。名作「Love Letter」の中山美穂と豊川悦司が出た瞬間に甦る郷愁。過去に捕らわれているのは主人公なのか、それとも我々 岩井ファンなのか…

過去と現在を行き来しながら、松たか子の視点から福山雅治の視点に切り替わっていくのだが、最初から主人公の福山か神木の視点で始まった方がサスペンスも盛り上がるしテーマにも合うのではなかろうか?そちらの方がラブレターを彷彿とさせるのではないか?と考える時点で過去に捕らわれているのだろう。

そうは言っても、今をときめく広瀬すずと森七菜がフレッシュな煌めきを与えてくれて後半は涙腺が決壊しそうなほどの切ない岩井ワールドが炸裂し、天才監督の帰還を感じ始めた。

しかし格好いいとは言え、いい歳したオッサンが美少女二人に励まされて写真を撮る辺りから変な気分になってくる。

そしてラスト、大号泣間違いなしの卒業式で感じたのは、過去に捕らわれ亡霊と化したオッサンが死霊となった女の思い出に完全に閉じ込められた岩井俊二版の「シャイニング」。

前向きになったと見せかけて、また同じ女の話を繰り返すであろう小説家が、その女の甘い罠にハマったように見えてしまった…

あの写真に写った二人の美少女がシャイニングの双子に思えてきたし、ラストの俯瞰は霊からの視点。

凄い感動しながらも、甘い思い出の地獄に落とされたような…無限ループにハメられたような…岩井ファンが過去とサヨナラできないのか、岩井俊二本人が過去と決別できないのか…

卒業アルバムを大事にし過ぎて痛い人になってしまったかのような複雑な気持ちにさせられた甘美な思い出ホラーでした。
YukiSano

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