ひれんじゃく

永遠の門 ゴッホの見た未来のひれんじゃくのレビュー・感想・評価

5.0
内容に触れているような、いないような感想なので未見の方注意。



















○あまりに美しすぎて泣けてしまった。真っ青な空と黄金色の陽光。赤茶けた地面と若葉が香り立つ緑色。全体的に画面の色合いが青と山吹色で統一されてて見やすいし、どのシーンを取ってもゴッホの絵の中から抜け出てきたようだ。影まで青っぽくなっている細かさに脱帽した。仕事があまりに丁寧で。当たり前だけど彼の描いた絵は彼が見たものを書き写したものなんだよなあ。ゴッホにとってはあんなに世界は強く光を放っていたのか…としみじみしてしまうし、滑らかな面でできているものなんて何一つなかったんだろうな、盛り上がった絵の具のようにさまざまな強い色が混じり合ったものとして見えていたんだろうなと思いを馳せてしまう。

○こんなに美しいのになんでみんなゴッホの絵が醜いだの不愉快だの言うんだよ〜〜〜〜人それぞれの感想だとは思うけどさ〜〜〜〜〜〜〜なんとなく「生まれてくる時代を間違えちゃったな、この時代は自分には早すぎたな」と諦めてるゴッホがつらい。ある意味それに気づいたことで落ち着きを得たとも言えるけど。そうして悟りながらも終始「自分の見たものを分かち合いたい」とこぼしてるのもつらい。私たちが人付き合いをする理由の一つもそれなんだろうなと感じるから。共通認識を持つことができてなにかをシェアできればメチャクチャハッピーな気持ちになれる。このFilmarksを含めたSNSを使うのも「分かち合いたさ」が大きいのでは。その上で同時代に分かちあってくれる人がいなかったゴッホはどんなに孤独だったろうと考えてしまう。遠い遠い時代にその存在を期待しているからこそ、その出現を自分自身は見届けられないにも関わらず信じて描き続けられた強靭な精神力。狂気に足を突っ込んでいたからこそ、ここまで頑なでいられたのかなと邪推してしまう。誰目線?という形になってしまうがここまで作品を残してくれてありがとうという思いが強い。おかげで百数年後を生きる私たちでも、彼の生きた証と見えた世界を全てではないけど「分かち合う」ことができる。無知すぎて銃殺(自殺説もある?)されたことを初めて知ったよ。どこまでも報われないけど、後世では「ひまわり」「星月夜」を筆頭に名が轟いていることがせめてもの慰めになっていて欲しいな。

○特に冒頭の方の立ち枯れた向日葵と野原をザクザクと歩くシーン。直前まで部屋で描いてた靴の絵で使ってた色と野原の色が同じで声出ましたもん。原色に近い、彩度の高い茶色とか黄色とか。本当すごい……………………………ゴッホが野原を歩く時、歩いてるその場所と空は光に溢れてるけど向日葵は全部枯れてるのも非常に印象的。

○全体的に手ブレが目立つ撮り方も好きだなあ。全体的に不安定で荒々しいゴッホの絵を想起させて。演出もいい。黄色と青みがやけに強く写る視界(カメラの)の下半分が奇妙にボヤけてたり、相手の会話が数テンポ遅れてかつ何度も頭の中で反響したり。切り取った耳の様子を医者のスケッチだけで示すのがエグいし、絵が賛美された批評をバックに軟禁されてるみたいなゴッホが映るのもエグ……………………………

○そして演出の感動に浸ってたら初っ端からオスカーアイザックがぶち込まれるし急にマッツ・神父・ミケルセンが登場するしですごい。ウィレムデフォーがすごく好きになる。
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