YukiSano

37セカンズのYukiSanoのレビュー・感想・評価

37セカンズ(2019年製作の映画)
4.2
勇気を貰える作品。
とてつもなく大変なことをサラっと描いていた。

脳性麻痺の障害を持った女の子の自立という名の大冒険をヒリヒリと心をえぐりながら、時に優しく、絶妙な立ち位置で表現する。

まず主演の佳山明の文字通り裸一貫の体当たり演技が素晴らしい。ここまでに至る彼女の想いや、御家族の想い、監督らスタッフの熱意を思い、目頭が熱くなった。心から敬服する。まさに主人公や支援者達が劇中で経験したこと、そのものだったのだと想像させる。

また他の演者達の主人公に対する絶妙な距離感が、この作品の品格を底上げしまくっている。これは監督の演出力の賜物だろう。同じく障害者の性を描いたアメリカ映画「セッションズ」にも通じる介護者の距離感というのは作品の肝になってくる。ここを間違えると欺瞞的か露悪的になる。

しかし、この作品の介護者を演じた大東俊介の抑制の効いた演技は、本当に品が良い。ただ、ずっと見守る立ち位置という、最も地味なのに凄く考えさせられる絶妙な役だった。安易に恋愛にならないのも良い。

実は一見、冷たそうだったり怖そうな人の方が後半では優しい眼差しをしていて、逆に甘い言葉を使う人間は身勝手、という演出がさりげなく施されていて上手いなぁと感心。

それが実の母親でさえ、そうだと分かった時の主人公の気持ちと想いを伝える時、この作品が暴きたい怒りが哀しく優しいことに気付く。母が人形を扱う意味は支配だけではなく、罪悪感からだ。

そして、それらを主人公の乗り越える勇気が変えたもの。

堅すぎるきらいはあるものの、誠実で堅実な演出が最後に紡ぐもの、主人公の最後の笑顔には心から勇気づけられる。

それは主人公を演じた佳山明そのものの勇気と作品を作ったスタッフに重なって、何重にも響いてくる。

現実に、HIKARI監督はハリウッドで活躍が約束されたそうだ。

1つの作品が奇跡を描いた時に、現実でも奇跡が起きた。でも、それは皆の小さな勇気が集まったおかげ。そう信じさせてくれる珠玉の映画でした。
YukiSano

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