じゃがいも

ジョーカーのじゃがいものレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.6
10/2試写会。驚きの展開があるので内容には触れず(ポエムになってしまうんですけど…)、せっかくの試写なのでたくさん書きます。

おぞましい傑作。面白い、良かった、衝撃、どれも違う。清々しくて、同時に痛切。張り詰めて切れる直前の命綱を眺めているような緊張感。 映像はドロドロした空気だがキレキレ。アーサーに寄り添うチェロの低音は時限爆弾のカウントダウンのようでもあり「ダンケルク」の劇伴を思い出した。ここぞとかかる挿入歌もめちゃくちゃかっこいい(主張の強い音楽は苦手な人もいそう)。
頭がぼうっとするようなインパクトだけど、意外と爽やか。

もちろんJOKERの映画なのだけれど、これは悪のカリスマが生まれる話というより、もっとパーソナルな、ある何者でもない男アーサー・フレックがアイデンティティと承認を手に入れて本当の自分を見つける物語だと思った。ジョーカーは社会が生んだ歪みであり、同時にアーサー自身の選択でもある。

コミックが好きな人や名作映画オマージュが露骨なのが嫌なら嫌いだろうけど、ジョーカーというキャラを乗っ取って映画を作ったことを許容できるなら面白い。コミックと違ってバットマンの影が薄いとか辛い話で嫌だとかはしょうもなさすぎ。そんなことどうでもいい。

前知識は必要なし。モチーフやオマージュが多く、知っていれば楽しいけど、バットマン過去作を含め予習は必須ではない。でもバットマン関連作品なんだと強く実感するシーンもあり、驚かされる。「タクシードライバー」「キング・オブ・コメディ」の影響はとても分かりやすい。露骨すぎてスマートじゃないなという気すらした。

映像が綺麗。オレンジと青が印象に残った。圧倒的な黒と豊かな色彩を持つドルビーシネマで見る価値あり。上映前のドルビーシネマ紹介映像のワクワク感すごいですね。「これが黒です」劇場自体が光を逃さない作りなのかな?劇中、暗転したときに本当の暗闇が迫ってくる。1m四方の部屋に突っ込まれたかと思うほど狭く感じて息が詰まった。そして解像度!!ホアキン・フェニックスの首の産毛の1本1本まで見える。これからの俳優は産毛まで演技するのか大変だなと変なことを考えた。音響もすごく良かったが、端のブロックの席だったからか、ずば抜けているとは思わなかった。12.1chのIMAXとだいたい同じ感覚。

最後に。まだ今作を観ていない方が、不確かな記事をもとに「白人の異性愛者の男性による暴力を肯定」「インセルを増長するという評価に納得」「強者男性ではなくより弱い女性を攻撃」などとネット上に書いていることに驚いています。懸念は分かります。残念ながら今も多くの作品にそういった要素があるでしょう。しかし今作では誤読ではないか。主人公アーサーは白人、異性愛者、男性というマジョリティの属性を持つが、その他多くの点で弱者であり、インセルの増長と呼べる描写もなく、性別を理由にした攻撃も存在しません。また主人公の男性性がキーになっているとも思えません。
「多くの人は、正しいことと間違ったことの違いが分かる。そしてそれが出来ない人は、どのようなものからでも自分たちの受け取りたいように解釈するだろう。」
これはアーサーに共感する人が事件を起こす可能性について尋ねられたホアキン・フェニックスの言葉ですが、作品の解釈についても言えることだなと思ってしまいました。この作品が、事実に即して冷静に語られるといいな、現実の暴力を呼ばないといいな、と思います。

微ネタバレ
今作のジョーカーの罪には目的意識がある。復讐だ。自分を暴行した人、貶めた人にしか牙を剥いていない。「人や社会を操って混乱に陥れる」ジョーカー像との間には隔たりがある。こう解釈すると、混沌をもたらす悪のカリスマとしてさらに覚醒する余地があり、続編を期待したくなるし、意外と有り得ると思う。

追記:また観たくて2回目IMAXに行きました🙃やっぱ画面が綺麗だ。いい環境で見てほしい