岡佳佑

ジョーカーの岡佳佑のレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
5.0
Filmarks試写会。
丸の内ピカデリー3のドルビーシネマで鑑賞。

傑作だった。
スコアは5.0ではとても足りない。

貧しい暮らしを強いられ、誰からも見放された孤独な一人の男が、いかにして悪のカリスマへと変貌を遂げたのか。
今作は、ジョーカーという世界一有名なヴィランの物語ではなく、アーサー(ホアキン・フェニックス)という一人の男の悲しくも美しい狂気に満ちた人間ドラマである。

自分の中では、長らく、クリストファー・ノーランが手掛けた『ダークナイト』(2008年)に登場するジョーカー(ヒース・レジャー)が唯一のマイ・ベスト・オブ・ヴィランだったが、本作のジョーカーはそこに肩を並べることになった。
どちらがより優れているとかではなく、どちらもが頂点。
ただし、その頂はそれぞれ別の領域にある。
同じジョーカーという存在を描きつつも、そのアプローチは全く異なっていた。
ヒース版ジョーカーは感情移入ゼロの純粋悪であったのに対し、ホアキン版ジョーカーは過度に感情移入してしまうほど"人間的"なヴィランだった。
純粋に「ヴィラン」と呼ぶのに抵抗を覚えるほど、今作のジョーカーは見ていて胸を締めつけられるものがあった。

人々を笑顔にできる人間になりたいというわずかな希望を捨てずにいることでかろうじて"正常"を保っていられていたアーサーの心が、様々な不幸に見舞われ徐々に音を立てて壊れていく様子は、観る者の心をこれでもかと揺さぶってくる。
ターニングポイントとなる出来事があって以降、それまで静的だった画面にブレるようなカメラワークが加わり、冒頭から静かに流れていた重低音の不穏な音楽はそのボリュームを増していた。
優れた脚本だけでなく撮影や音楽などあらゆる部門がアーサーの心情描写に最大限の貢献を果たしていて、それ全体としての完成度の高さに舌を巻いた。

そして、何といってもホアキン・フェニックスの演技。
所作や表情の機微を細かく表現していてアーサーの心が徐々に壊れていく様子にグラデーションがつけられていたし、ある時点を境に完全に心が壊れてしまったのがありありと伝わるほどの圧倒的説得力があった。
そして、ジョーカーと成って以降のカリスマ性を感じさせる存在感。
タバコをふかしながら堂々と街を闊歩するその姿に鳥肌が止まらなかった。

今作は、陳腐な表現では決して言い表せないほど素晴らしく、間違いなく次のアカデミー賞でオスカーを総なめにするであろう作品だったが、それを最高の環境でいち早く鑑賞できたとなると、Filmarks運営事務局に最大限の感謝を伝えたい。
丸の内ピカデリー3にできたこのシアターは、全国初のドルビーシネマ専用シアターとのこと。
座席の配置やデザイン、内装のカラーリング、そしてDolby VisionとDolby Atmos。
すべての要素が上映作品への没入感を高めるために設計されていて、その宣伝文句に違わず、作品が始まってからシアター内が明転するまでの間、スクリーン以外の存在を意識した記憶がない。
通常料金に600円ないし1000円を追加するだけでこの没入感が味わえるなら安いものではないだろうか。
これから多くの作品が上映されるけど、足繁く通ってドルビーシネマフリークと呼ばれるようになるのも悪くない。
岡佳佑

岡佳佑