NASUVI

ジョーカーのNASUVIのネタバレレビュー・内容・結末

ジョーカー(2019年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

私は一体何を見ていたんだろうか。
これは、新約聖書、キリスト聖誕を描いた作品なのか?

自分の思いがそう酷く混沌としていながらも、彼の生き様にキリストを重ねずにはいられませんでした。私には、本作が、キリスト聖誕ならぬ、ジョーカー聖誕という言葉が何よりふさわしく思います。
神への冒涜に聞こえるかもしれませんが、物語の最後で横たわるアーサーをパトカー(十字架)から抱えて引きずりだすシーンに、母マリアや弟子達が十字架からキリストを降ろす様を連想せずにはいられませんでした。 キリストという名の人間もまた、民衆の深い哀しみや怒りから生まれた偶像であり、あのシーンを見て神の子を連想した者は少なくないんではないでしょうか。

ただ、いくらキリストに似ていようが、私は彼に共感出来ないし、彼の教えを請おうとも思わない。
誰かが言っていた「どこかでもう少し良い方向に向かうことはできなかったのか」という言葉も、鑑賞前には共感していたけど、これを見てからは何一つそう思えなくなってしまいました。
世の中が彼を生み出したという話には賛成ですが、私が見るからに、彼は最初からああいう人間で、変えるタイミングなど何一つなかったように思います。
演じていたホアキン・フェニックスが、「最初から最後まで一度も共感できなかった」と言っていたのだから、私も今作を一生理解し、共感することは出来ないでしょう。

また、もう一つ怖かったのが、一部の観ている方が思わぬシーンで声を出して笑っていたこと。
何一つ笑えるシーンなんてなかったはずなのに、殺人に居合わせた人の焦った姿や、アーサーの奇異な行動に笑っている方がいて、本当に怖かったです。
今見ているアーサーとこの笑っている人々はもしかしたら同じ人物なのではないかと、下手なお化け屋敷よりも怖く、後半鑑賞中も、終始後ろで笑う人が怖くて気が気でなかった。
このように、観る側の善悪をも試す作品を作った監督、俳優、製作陣は本当に素晴らしいと思います。彼らはこの作品を、どんな気持ちで作ったんだろうか。

色々と気持ちを整理して、一番鳥肌が止まらなかったシーンは何かと考えていましたが、アーサーが見ていた現実が虚構と気づき、帰路につくシーンが、私は一番怖く、また興奮しました。
「あ、彼が落ちた」というその瞬間が目に見えてわかり、あまりの興奮と恐怖にずっと震えていました。
きっと、その時に流れていた曲も相まっていたんでしょう。
バットマンのBGMでティンパニーがリズムを刻む節が大好きなんですが、ジョーカーでもその節が随所に使われていて、不快な音と彼の足音の相性が本当に素晴らしかったです。

色々と振り返っていますが、まだ全然気持ちの整理がつかない。
ただ、これは私が今まで見た作品の中で間違いなく一番の問題作になりそうです。
何回も見るには自身の精神がもちませんが、もう一度見て推敲を重ね、今自分の中にあるこのモヤモヤを何とか和らげたいと思います。

なお、音楽がとても素晴らしい作品なので、本作を見たいと思っている方は必ず映画館で、且つ音響設備の整った場所で見た方が良いかと思います。
そして、見ることに躊躇している方は見ない方が良い。これは、それ程までに見る人を選ぶ作品です。人よっては、この悲哀に吐き気すら感じてしまう恐れがあると思う。

最後に、この作品に携わった全ての人々に、最大の感謝と敬意を。
歴史を垣間見えたことが何より私は嬉しい。
NASUVI

NASUVI