大木茂

ジョーカーの大木茂のレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.1
現代のアメリカンニューシネマパラダイスである。

ヒーロー、ヴィラン、ビジランテでもない
彼らはただの○○だった…

よくヒースジョーカーと比較されがちだが
あっちは憧れ型
こっちは共感型
これで全て説明がつく

現行聖書のヒーローを再構築し
タランティーノばりに70年代映画をサンプリングしている
ソシオパス作品の基準を作ってしまった

目覚めの瞬間の狂気、指で弾く仕草、タイミングをシミュレーションする可笑しさ、髪型の変身、意図しない成功、タクシーアクシデントなどほぼ「タクシードライバー 」とも言っていいプロット

ホアキンアプローチとも言える肉体美
デニーロを意識させるかの様な表情(バスのシーンはホントにデニーロに見えた)
デニーロとの世代交代を強く意識させる
そして舞台はほぼ同じと言ってもいい「キングオブコメディ」

社会の問題を提起し悲観と希望を写し
笑顔を作る「モダンタイムス」

半世紀以上愛されている最悪のヴィランをハードルが上がりまくっている所で新記録を出し
今までに無かったオリジンを描いた

まるで100%濃縮還元フルーツジュースに
フルボディのワインを混ぜたサングリアの様なテイスト




この映画は冒頭のワーナーのロゴでも分かる通り
退廃的なアメリカを描いた
あの時代の作品を意識している
ベトナム戦争、民権運動、政治不信という闇を様々な形で表現できたからこそアメリカンニューシネマが出来たと言える
現代ではもうこのジャンルは作られないと思われたがこの「ジョーカー」は2010年代で照らし合わせても破綻しないほど一致するテーマがいくつもある

まず病気や現象に名前が付く事によって安心できる反面、レッテルや差別が起こる危うさ
承認欲求の果てに行き着く最悪の事態
そしてそれに影響されて暴徒となる不満の声の実体化
これら全ては昔からもあったが今現在起きている事をダイナミックに映画として表現している

「スマイル」をトレーラーだけでなく本編にも出す事に感動を覚えたが「モダンタイムス」自体も登場する
そしてそのメッセージはやはり恐慌、共産主義、ストライキなど当時の問題を挿入しているのだ

特に承認欲求の悲痛さはネット社会の自分達に突き刺さる
何か上手い事をさも新しい言い回しで羅列したり、盲点を突く、有名な人物への批判など15分しか有名にならない者や
ライクやフォロワー欲しさに逆にアピールし
本文やプロフもろく見ずに手当たり次第にボタンを押す人(いいねを振り撒いて返りを待っている、あなたたちの事だ)
現代社会の依存症とも言っていい


しかしこれらを全て背負って運命はアーサーをキリストに仕立て上げてしまったのだ

「ダークナイトライジズ」で銃を乱射してしまう心の弱い者を更に作りかねないような誕生の美しさをこれまでかというくらいに描いてしまったのは罪に近い
製作側はこれはヒーローとして描いていないと言っているがどう考えても現代に悩める病人達の希望の超人なのだ


この映画は一切笑い(作品の病的、暴力的な描写にはニヤニヤしたが)は無いが
「ハングオーバー」の監督がこれを撮っている事に意外性から来る笑いが止まらない
(実はこのシリーズこそ狂っていて陽気な印象だが不謹慎で度を越える冗談、表面上は気にならない程度の精神疾患な人物を笑い者にしているなど全く無関係では無い)

ジョーカーオリジンであると同時にゴッサム、アーカムの誕生である事にも歓びを感じる
特に電車や線路のシーンが印象に残るのだが見せ方がまるで「フレンチコネクション」の様でもある
更に病院のシーンは「カッコウの巣の上で」のあの場面を想起させられた
これもまた70年代の映画なのだ…

そしてDCユニバースを完全無視しているにも関わらず
89年の「バットマン」ファンへのサービスとも受け取れるシーンがあるのだが
ここの繋ぎ方は感動すら覚える

この映画の為に彼の作品を観続けたがこのジョーカーが彼の最高傑作(次点で「容疑者ホアキンフェニックス」だ、冗談抜きでこの作品と対をなしてると思う)
そして思い返す時、彼は実は怒りの表情というのが一切なかったように感じた
それと同時に笑顔も無いのだ、笑い声は嫌ほど聞けるが
ピエロやコメディアンのアーサーは笑いというものを感じれないという究極の皮肉を表現している
パンフレットにも載っていたが
初めて暴力を働いた時か?
自分のルーツを知った時か?
過去を全て絶った時か?
メイクを完成させた時か?
舞台に立った時か?
世の中に見つかった時か?
色々なタイミングが用意されているが
アーサーからジョーカーへの変身は明確にされていない
この曖昧な変化がアーサーの闇を形に出来ない難しさとリンクしているようにも感じる


どうかこの映画を観て悪い影響が出ないことを願う
そこまで心配するほどのめり込めるし共感してしまう作品だった
ヒーロー不在の悪役をここまで丁寧に描写する映画を初めて観た。



‪劇場での観客が‬
‪『変なタイミングで笑いだす』とかで本気で怖がって人とか‬

‪『誰しもがジョーカーになる』って恐れる様に期待したり‬
‪真面目過ぎるんだよ‬

‪むしろみんなで仮面被ったり、メイクして‬
‪名刺とかおもちゃのピストル用意して‬
‪アーサー応援上映会したいわ‬

‪映画なんて冗句なんだからさ‬











2021/10/31
ついに国の恥がうまれたな
髪型とメイクは不完全で
マスクしてるのが物凄くダサい
何故かダークナイトなのもズレてる

心動かされたなら原典に迷惑かけるなよな
ちゃんと観たんかな?
病人ビジランテ、アッチは金に火をつけるソシオパス、またはギャングとルーツを何も分かってないんだよな
ガワだけでその気になってるのは見てられないわ
リアルでやると恥ずかしいし可哀想って事が分かったな
遠回りの自殺の道具にコレを軽々しく使われるのは流石に琴線に触れたわ

いつかこんなバグが起こると思ってたけど
こうなると名画に火をつける人が出てくるのも時間の問題だな
大木茂

大木茂