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ジョーカーのJIZEのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.5
財政難に陥り人心が荒むゴッサムシティを舞台に寝たきりの母親を介護しつつ大道芸人を生業とする汚言症を患う男がスーパーヴィラン"ジョーカー"に変貌するまでの極秘の誕生秘話を描いたDCスリラー映画‼︎日米同時公開の初日レイトショーでみた。新星ホアキン・フェニックス版ジョーカー、ガリガリの減量から一癖ある雰囲気まで役作りが凄まじかった。。単純に『ダークナイト(2008年)』での神格化されたヒース・レジャー版とは異なるアプローチで"アーサー・フレック"という人間的な脆い部分が今回はエモーショナルかつ感情的にデフォルメされている。道化師の荒み狂った生き様にまさか感情移入させられるとは思わなかった。この映画をみた後だと彼の独壇場となるある終盤の白眉の場面での所業に偉大なる清々しささえ覚えてしまう。またジョーカーがある場面で発する「どいつもこいつも最低で、狂いたくもなる」という悲観的な台詞があるが、我々観客の困窮する世界とも少なからず共鳴するものがある。いわばこの映画は"生きづらい時代"を縦軸に人生以上の高価なものはない讃美を悲劇ではなく喜劇として訴え掛けてるように思う。端的に衝動的な暴力に報復としての正義を行使する悪意を放つジョーカーという新たにシンポル化させた悪のカリスマが誕生した。もっと突き詰めれば"世間に祭り上げられた悪"という印象である。デニーロとの競演でも『タクシードライバー(1976年)』や『キング・オブ・コメディ(1982年)』が羅列されるが世界観バランスの配合もレイヤーが被さる奥行きある作品に完成した。本作は最凶で残酷な悪役を主役に据えつつも、微かな希望と人間味を残像として残すような不思議な味わいがあるように思う。不評のDCEUと切り離して単独でシリーズ化してもらいたいぐらい単体の作品としても文字通り大傑作でした。来年のアカデミー賞受賞に超期待である。

→総評(喜劇的妄想が爆発する最凶ヴィラン誕生譚)。
総じてDC映画の中で文句無しブッちぎりベストである。アメコミのヴィランを主役に据えた映画をコンスタントで毎年1本は製作してもらいたくなるほど面白い視点での映画でもあった。抑圧が有るからこそ爆発するときの美しさは何倍にもなる。単にジョーカーのオリジンを美化せず彼なりの流儀で正義を悪の標的にむけ確実にくだす何物にも変え難い感動があった。また何者でもない人間が挫折をバネに悪のカリスマの帝王に君臨するまでをエモーショナルがぎっしり描き込まれていた。何箇所かゴア描写に至っても今までのジョーカーが登場する映画の中でトップではないか。中盤の電車内でブッ放す感じはカタルシスがあるが、終盤でジョーカーがハサミをああするくだりはおもっくそ目を背けてしまった。。また極悪の犯罪者が移送されるアーカム病棟やバットマンパートとのファンに目配せする接待描写もユニバースのお約束として畳み込まれている。今回監督のトッド・フィリップスでも『ハングオーバー(09.11.13)』など喜劇畑の認識だったが改めて人間描写や時代感、秀でる喜劇など監督の作家性が遺憾無く発揮された代物へ昇華された一品に思う。悪い意味で表面だけをなぞりおちゃらけた映画に終わらなかった点はかなりの讃美に値した。というようすでに第76回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を獲得してるなど拍車がかかる本作だが、あくまでもR-15指定なのでできれば一人で映画館に行き感傷に浸ってもらいたい。また今後ホアキン・フェニックス版での角度を変えたシリーズ化の続編を熱望する。
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