ゑゐりあん

ジョーカーのゑゐりあんのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
5.0
人生ではじめて(この映画に対するジャンルの振り分け方が正しいかは別にして)”ホラー映画”を観た。
リアルでグロテスクなシーンは思わず目を閉じてしまったが、6人もの人を殺めた殺人犯ジョーカーがなぜそのような事をしたのかというプロセスに話の焦点を絞っていて、話自体の進行は分かりやすかった。かつて自分が小学生の頃虐められていたことが上映中ずっと克明に記憶に蘇って動悸が治まらず、息が苦しくてしょうがなかった。

私はこの映画が一番に伝えたかったテーマは、善と悪が、水と油のように真逆のものではなく、死が生の過程で訪れるものであるようにグラデーション状に繋がっている、という事なのかな、と思った。
殺人犯ジョーカーになってしまった主人公アーサーは、終始一貫してコメディアンになって自分と他人を幸せにする事を願い、自分に無情に愛してくれる父親という幻想を渇望する哀れでちっぽけなかつて「善い」人間だった。
それは「コメディアンになりたいんだ」といった趣旨の台詞を繰り返していたこと、法律上養父だった市長やコメディショー司会者に父性を求めて糾弾していたことからも分かる。
今、この作品がこんなにも人々に観られて評価されているのは現代社会の歪みを正に体現しているのではないかと思う。
台風19号による避難者受け入れの際、ホームレスを受け入れなかった某地区の対応とそれを当然と決めつける人達の姿勢にもあるような弱者排他主義的な時代の流れは、殺人鬼ジョーカーの様な人間を量産するのではないか、と危機感を持たざる得ない。
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