tamashii

ジョーカーのtamashiiのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.4
IMAXで鑑賞。ようやく。

いくらか教養あるまともな社会人のひとりとして、大きな無力感を味わうことになる。これはフィクションなんだけど、下手なドキュメンタリーより今の社会の現実を映してるようにも思えて、秩序がやっぱり大事だとどうにか言い返したくなるけど、この映画を観た直後は、そんなの薄っぺらじゃんって感じで闇落ちしちゃう。でも、帰り際にコンビニ寄ってポテチ買う頃にはそんな切羽詰まった感覚は消える。アーサーの行動や主張に対して、普通の人がとれる反応は、見ないフリをしたり、忘れてしまうことだ。返す言葉を持ち合わせてないから、そうするしかない。

コメディが好きだと言うのは、誰かを笑いで幸せにしたいという利他的な理由じゃなくて、常識破りなことを言ってみたいとか、何かを壊してみたいという自分の衝動に関係してるんだろう。全編にわたって、観てるこっちはかけらも笑えないというか、こっちも笑うしかないというか、常識を破られてほとほと困ってしまう。まさにジョーカーの狙う通りの状態に陥っているのだろう。

アーサーに共感できない人もいるだろう。だけど、アーサー側の人々を分かろうとしない、高慢なやつらを叩きのめそうという群衆も映画には描かれている。アーサーも、そうした群衆も、社会的弱者なのだから味方すべきようにも思えるのに、彼らに与すると社会が大変なことになるのが目に見えているので、いくらか賢い大人は、やはり見て見ぬふりを続けるくらいしかやりようがない。
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