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地蔵とリビドーのurakatayusukeのレビュー・感想・評価

地蔵とリビドー(2018年製作の映画)
4.5
滋賀県甲賀市にある、障害者介護事業所「やまなみ工房」に通うアーティストたちの作品制作の様子に迫るドキュメンタリー映画。僕自身が研究したいテーマでもある「アール・ブリュット(アウトサイダー・アート)」とは何かを探るために鑑賞。滋賀県立美術館のイベントで「やまなみ工房」の施設長の山下さんのトークとともに。(11月なのに野外上映という条件で鑑賞)

僕自身は高校時代からずっと美術が好きだった。それこそ、モネやピカソなど美術の教科書に載っている芸術家の作品を観に美術館にもよく行く。美術史にも関心がある。
例えば、印象派であるとか、キュビズムであるとか。

どのジャンルの芸術にも系譜がある。いわゆる時代の流れ、ニーズ合わせて新たな作品が生まれ、壊され、また新たなものが生まれる。
「アール・ブリュット」は、その系譜のどこにも属さない存在である。

フランスの芸術家、ジャン・デビュッフェが提唱した、「アール・ブリュット」は日本語では「生の芸術」と訳される。またイギリスの美術史家のロジャー・カーディナルによって、「アウトサイダー・アート」とも呼ばれている。
伝統的な美術教育を受けていない作り手がつくった作品のことである。それらは全てではないが、障害者によって描かれた作品も多くある。

僕自身がいま福祉の仕事に就き、福祉の先にある美術が重なった部分が「アール・ブリュット」だった。それもあってか、はたして「芸術」なのか、または「福祉」(の一部?)なのかわからない存在と思っている。

芸術としてみるならば、いまの現代美術を一言で言えば、「なんでもあり」ということなのだろう。美術の学校を出なくても、どこかの芸術家の弟子にならずとも、誰でも作品はつくれる。
一方で、「やまなみ工房」のように、障害者それぞれが、つくたいものをつくることができる居心地のよい時間と空間が保たれていることは、まさに福祉の役割のように思える。

映画にでてきたアーティストたちは、何かカッコつけようとか、モテようだとか。
誰かに評価されようだとか、そんな感情は一切ない。ただつくりたいという欲求、衝動だけでつくられた作品である。
それは学校で図工や美術の授業を受けていた感覚では、理解できない領域なのだと思う。
これはアートなのかと考える僕自身も、その感覚があるからなのだろう。
これまでの価値観では捉えきれない、「最前衛の芸術」といえるものなのだろう。

僕は芸術も福祉もまだまだ理解出来ていない。この映画も、アーティストたちも、「やまなみ工房」の取り組みも、僕が今いる場所より、ずっと先の方にある。少しずつでも近づいていきたいと思った。
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