がちゃん

にっぽん昆虫記のがちゃんのレビュー・感想・評価

にっぽん昆虫記(1963年製作の映画)
3.8
大正末期から昭和の高度成長時代に突入する時代を生きた昆虫のようなエネルギッシュな生命力を持つ女性の半生を今村昌平監督が描いています。

東北の田舎町で生まれた松木とめ。
父、忠治と母、えんの子供であるが、母親は多数の男と性交渉をもっていたようで、実際の父親は定かではない。

とめが思春期になったころ、母親が情夫と情事に耽っているのを目撃してしまったとめは、ますますそのことに疑念を持つようになり、血縁を疑うようになり次第に父親に性的な好意を抱くようになる。

成長したとめは、製糸工場で働くようになり、足入れ婚をさせられ、組合活動などをしたあと上京。
そこで生きていくための手段としてメイドをしていたとめは、さらに稼いで実家に仕送りするために売春婦になる。

そして、売春のハウ・ツーを学んだ彼女は、赤線廃止後、法の目をかいくぐったような売春組織を作るのだが・・・

主人公のとめ、母親のえん、娘の信子の三代にわたる生き様がたくましい作品です。
この女性たちには、性に関する罪悪感などまるでないのです。

近親相姦的な関係だった父親が危篤と聞いたとめが実家に戻り、死ぬ間際の父親に自分の乳房を吸わせる場面で、それを確信します。

組合闘争や玉音放送、安保闘争などの実写場面を挟み込み、日本の近代史としての側面も見せながら、貧困からの脱出という普遍的なテーマを問う本作。異色作です。

親にも娘にも捨てられることになる主演のとめを演じた左幸子が、ベルリン国際映画祭にて主演女優賞を受賞する熱演。

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