ボクシングXホラーX暴力
薄気味悪い青い映像と、血を際立たせる照明のこだわりが持続し、緊張感が途切れない。
情けない保険の外交員から、ボクシングに傾倒し、人が変わっていく姿を主人公兼監督の塚本晋也が熱演。
実弟の塚本耕司の迫真の闘争本能むき出しの面構えも狂気を孕んでいる。
脇役の竹中直人、六平直政、輪島功一の三人は、『あしたのジョー』を彷彿とさせる劇画のようなキャラクター。
単にグロい作品に終わらせないのが、藤井かほりが演じる、主人公の恋人ひづるの、男前の美貌。
痛みのない暴力シーンは偽善だというメッセージが浮かび上がるくらい痛みが強調されている。
だから万人向けではない。
一方で過激な描写に強引に挿入される高層マンションやビルは何を示唆しているのだろう。
その窓の向こうの人達にとって、ボクシングは異世界か?
平凡な主人公は、窓の向こう側の人間ドラマから、血みどろの痛みの世界に渡っていった。
主人公の行為は観客の代償行為のように思えた。暴力と痛みの原動力は何なんだという疑問が続いた。
映像から痛みを感じるかどうかは、観客自身の暴力の体験の度合いによる。
その度合いを補完するために、言い換えれば観客に暴力は痛みだと伝えるために、血や傷を強調したのではないだろうか?