おかだ

暗数殺人のおかだのレビュー・感想・評価

暗数殺人(2018年製作の映画)
4.0
お家芸炸裂


久しぶりの韓国映画鑑賞。
実在の殺人事件をベースにした警察手玉にとられ系サスペンスであり、全編に亘って不穏な雰囲気を湛えながらマズそうなメシを映すという韓国映画のまさにお家芸炸裂といった今作でした。

実際の未解決事件などを取り扱って公的機関の大衆イメージである警察組織の不正や失態を映すことで自国の批判を行うことに余念のない韓国映画であるが、代表的な作品として「殺人の追憶」「チェイサー 」などが思い浮かぶような、その系譜の典型的なそれでした。
タイトルにもなっている「暗数」というのは公になっていない事件の件数のことで、そういった意味でも真正面から先のテーマを扱っていくこととなる。


主演は、キムユンソクとチュジフン。
キムユンソクはチェイサー での暴力中年っぷりが印象的でしたが、こういう粗野で、執念に燃える刑事役はよくハマる。
しかし今作はやっぱり何と言ってもチュジフンやろうな。
白白しい演技と、抑えめながらも確実に狂気と理性を孕んだいやーな表情を作る絶妙な貌で存在感を発揮していました。


あらすじは、殺人容疑で逮捕されたチュジフンが、名指しでキムユンソク演じる刑事を呼びつけ、自らが犯した別の殺人事件について自白するという謎の行動から始まる。
それを受けて捜査を進めるキムユンソクだが。
という、それなりにオーソドックスな刑事サスペンスもの+法廷サスペンス要素という、わりとハッキリしたジャンル映画。
案の定、二転三転する証言や揃わない物証などのチュジフンの仕掛けた罠により、キムユンソクが追い込まれていく展開。
良くも悪くもセオリー通りに進んでいき、韓国映画の持ち味であるエグミのある描写やストーリー展開はかなり抑え気味。

その点、間口は広がるんでしょうが、やや物足りない印象。
その辺り、「アジョシ」のバランス感覚がものすごく優れていた。
韓国映画の持ち味であり欠点でもあるエグミを残しつつ、ハリウッド映画的な大衆娯楽要素を着地に持ってきていて、これはいよいよ完成したなと思わされたりした。


脱線したけれど、最後に、自分が思った特徴的な演出について。
まずは冒頭、海からグーっと街に寄ってくるオープニングショット。
今作では海辺の街が頻繁に登場する。死体遺棄による殺人事件の発覚遅れによる暗数化がテーマなんで、物理的に必然的なロケーションでもあり、さらに再開発による埋立というのがキーワードとして頻出していた。
然るにこれは、埋立られることにより隠されて忘れられていく、"風化"というのが今作のテーマに密接しているからだと思う。
そしてラストのカットでは、広大な土地で犠牲者を捜索するという厳しさを視覚的に表すべく、キムユンソクからグーっと離れていくショットが使われている。
言うまでもなく、冒頭のシーンと対比されており、これもまた必然的な締め方かなと思いました。

それから、取調室でのやりとりが今作の多くのパートを占めているが、その中では机を介しての物の受渡しという動作が印象的に繰り返されていたな。これには二者間の関係性を視覚化する効果があったんかなと思ったりした。

最後に、全体的な所感として、サクサク進む捜査パートや緊張感ある法廷パート、それから印象的な法廷での独白のシーンなど、基本的に定石に沿って描かれているが、何かチグハグな感じがしたかな。シーンの繋がりが、飛んでいるような感覚。
これ何でなんやろう。勘違いなんかな。


長くなったけど確実に面白い映画であることは確かなので、ぜひ映画館が空いているうちに観に行って欲しいです。
おかだ

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