みかんぼうや

靴ひものみかんぼうやのレビュー・感想・評価

靴ひも(2018年製作の映画)
3.6
【宗教、文化的観念を抜きに、純粋に父子の絆を描くイスラエル発の実話ベース感動ヒューマンドラマ】

イスラエルの映画を観るのは恐らく初めてでしょうか。イスラエルと聞くと、パレスチナとの武力紛争がまず頭に浮かんでしまう国ですが、本作は戦争とは一切関係なく、そこに暮らす人々の親子愛を描いた純粋なヒューマンドラマ。

発達障害を持ち生活の自立ができていないガディと、ガディとそのの母である妻のもとを離れ30年別居していた腎臓の病気を持つ父ルーベンが、母をの死をきっかけに一緒に暮らし始める。前半は発達障害を持つ息子とともに生活するルーベンの苦慮と苛立ちの中、息子と絆を深めていくことができるのか、というかなりオーソドックスな流れですが、中盤から後半にかけて、その2人の関係性は思わぬ形で強まっていきます。

ストーリーも演出も王道かつシンプルで、“イスラエル映画だから”という国民性、宗教観念、文化的背景の主張が際立つ映画ではないので(「別離」「パラダイス・ナウ」「判決、ふたつの希望」など、中東の映画は比較的これらの要素の比重がストーリーに占める割合が大きいため)、あまり中東の映画を観ている感覚はありませんでした。純粋なヒューマンドラマとしてガディに対する周りの人々の温かさと、様々な点から切なさを終始感じる作品です。

主役の父子が魅力的で、ガディは人懐っこく明るくてなんとも愛らしい。そして、父ルーベンも苛立ちや苦しみを抱えつつも、30年ぶりの生活の中で息子への愛に改めて気づき、時々見せる笑顔と息子を思いやる言葉がなんとも心に染みる。

実話ベースであり演出も地味めで、話の着地点も現実的(ラストシーンはそれまでの流れから考えるとちょっと“綺麗過ぎ”かなと思ったけど)。過度にドラマチックな展開で感動を押し付けてくる作りではないのも個人的には好感が持てました。

他の親子絆系や障害を抱えた家族をテーマにした映画に比べて、際立って特徴があったり、思わずハッとさせられるような衝撃的なシーンがあるわけではなかったですが、安定した良質なヒューマンドラマでした。
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