スクラ

第三夫人と髪飾りのスクラのレビュー・感想・評価

第三夫人と髪飾り(2018年製作の映画)
4.2
<幻想的な風景と観た人に解釈を委ねるラストが印象的>

本作はこれまではドキュメンタリー映画が主流だったベトナム映画に新しい風を巻き起こした作品だそうです(試写会でのトークショーから)

物語は深山幽谷ってこのような風景のことを表すんだろうなと見入ってしまう深い霧霞む中、水面を進む舟の場面から始まります。
舟には何を胸中に秘めているのだろうかと思わせる表情を携えた少女の主人公が力強いまなざしで乗っています。
このシーンだけで、ぐぐっと物語の世界に引き込まれました。

少女は一夫多妻制を取るベトナムの村に第三夫人として嫁ぎます。その年齢はまだなんと14歳・・・!これが監督の曾祖母の話を元にしていると言うんだから驚きます。

「第二夫人は男の子を産んでいないから『奥様』ではないのよ」
と作中で物語のキーとなる印象的な言葉が周りの人から発せられます。
まさか14歳の少女にこの言葉が圧し掛かるなんて、そりゃベトナム本国で物議を醸す話題作になるのも納得です。

映画を観る前はベトナム版大奥、女のドロドロした関係性が顕著に描かれるのかな、なんて思ってましたが、そのような描写はあまり無く、
3人の夫人たちは同じ夫に嫁ぐものとして、旦那様を第一に想う絆で結ばれているような印象を受けました。

それでも、主人公メイが懐妊し、それとほぼ同時期に第一夫人の懐妊も明らかになると物語は少し毛色を変えます。
「男子を産んでこそ」この言葉にメイが囚われ始めるのです。「男子を産んで『奥様』になりたい、第一夫人には男子が産まれなければいい」そんな感情とそんな感情を抱く自分自身に対する罪悪感に苛まれる主人公の場面は見どころです。

物語の終わりは観る人に解釈を委ねられていて、鑑賞後も余韻に浸ることができました。
主人公は自身が産んだ子が泣き止まず、あやしながらおもむろに物語で出てくる毒草に手を伸ばし見つめるんです。そして、対照的に「私は男の子になりたい」と劇中で言っていた第二夫人の娘の1人が川辺で女の象徴とも言える長い髪を自らばっさりと切り捨て、誇らしげに目の前を向いて物語は終わります。

私なりの解釈ですが、主人公は「男子を産んでこそ」という考えに囚われきってしまったのではないかと感じました。対して、第二夫人の娘が髪を切り落とした後に見せた誇らしげな顔は、そのような古い考え方に囚われずに新しい時代を生きようという意思がはっきりと見えました。

これは監督のベトナム映画に対する挑戦の暗喩に思えました。
ベトナムは社会主義国家で、前述のとおり映画というとこれまではドキュメンタリーが主流で、今作のような映画は作られてこなかったようです。
当然、今作もベトナムではかなり物議を醸したのこと。最後の場面は、保守的な考えに囚われず、ベトナム映画界にも革新を巻き起こしたい監督の意思が少女の表情に表されたのではないかなと。
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