乳酸菌

運び屋の乳酸菌のレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
4.4
老いたその佇まい、存在感は「ダーティーハリー」の頃のギラギラした印象とは全く異なり、何処か寂しげな雰囲気を醸し出している。

故に、冒頭からボロボロのピックアップトラックに乗るその姿だけで何故かウルウルと来てしまう。

比喩として運び屋とは、刹那、荷物を車で運んでいる時、彼にとってのそれは家庭を蔑ろにしてきた贖罪の小さな旅だったのかもしれない。

せめてもの罪滅ぼしとして、運び屋稼業で大金を手に入れ、そのお金を使って寄付寄付寄付、それで周囲の人は彼をあたかもヒーロー扱い。齢を重ねていてもやはり人から感謝される事は素直に嬉しい。

しかし、否応無く確実に時は流れる、それは良い方向にも、悪い方向にも。

身内の悲しい現実を突き付けられて、その時、彼はある意味その時点で達観したのかもしれない。もうここで終わりにしようと。それは半ば投げやりな行動、表情から垣間見れる。

終の住処が決まった時、それは不幸かもしれないが、しかし、穏やかな日々の訪れも意味し、彼にとっては、ある意味理想的な居場所なのかもしれない。

老いたクリントイーストウッドの所作ひとつひとつは演技ではなく、本物の実感が伝わってくる。だから、その素の姿に人生の終着駅とは何なのか?と観るものに問いかけられている気がする、その背中は寂しくもあり、しかしラストへ収束する時、あの二人のやりとりに涙をこらえる事はできなかった。

時代から取り残された男の最期の悪足掻きと捉えることもできるかもしれない、だか私はこの映画から愚直なまでの穏やかな人生を過ごした孤独な、だか、ふと幸せだったのかもと何か希望めいた物を鑑賞後に感じ、心に染み渡ってきた感覚は暫し後を引いたのでした。
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