カムイ

運び屋のカムイのレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
3.8
運び屋

人生をいろんな意味でリタイアしたおじいさんが安全運転の腕を見込まれて長距離運転で荷物を運ぶドライバーに…。ただし運ぶのは麻薬。

実際にあった事件を元に制作されたメキシコの麻薬カルテルがらみの話だということで、緊迫感に溢れたサスペンス調のストーリーなのかと思いきや、最初から最後までほのぼのとした朴訥な雰囲気のロードムービーでした。とにかく音楽と映像がいい。

軍人を退役した後は花を育てて沢山の賞を貰っていた主人公。富と栄誉を求めるのは全て家族のためであったのでしょう。それが彼の思い込みにすぎなかったのだとしても。日本の昭和のお父さんのように、家族のためと謳いながら家族を放り出し娘の結婚式すらスルーして仕事に明け暮れ、やがて時代の波に乗れずに仕事を失ったときにはもう、彼が顧みることのなかった家族なんてとっくになくなっていたのでした。
これはそんな主人公の、再生と贖罪の物語です。

住む家も仕事も失った老人は、安全運転の腕を見込まれて麻薬カルテルの運び屋の仕事を引き受けます。「絶対に荷物を見るな」なんて最初から怪しいし、実際何度目かの仕事ですぐに中身が麻薬だと気づくのですが、報酬の多さに目をつぶってしまうのですよね。この辺りが非常に人間臭い。かといって狡猾さは感じさせない。おじいさんが麻薬について最悪感を覚えている描写がまったくないからです。彼にしてみればただ荷物を運んで大金をもらうだけ。安全運転していれば怪しまれることもなく、儲けた金で老朽化したトラックを買い換えたり、退役軍人仲間の潰れかけた店を立て直したり、孫に大金を援助したり、たまには若いお姉ちゃんを呼んでハッスルだってしちゃう。

人生に余裕が生まれたおかげで、彼は本当に大切なものが何だったか思い出せます。そう、それは家族。
けれど、重要な取引で使う大量の麻薬を運ぶという大仕事の最中に、元妻の危篤を知ってしまい、第二の人生で再び究極の選択を迫られた彼は…。

主人公に仕事をさせるチンピラ達も、最初はおじいちゃんのことを馬鹿にしたり脅かしたりしつつ次第に親しみを見せるなど憎みきれない一面が垣間見えたりして、イーストウッド監督はとにかく人間の人間たる人間臭い描写がうますぎる。
なんていうか、100パーセントが善とか悪でできている人間なんてそんなにいなくて、要はバランスの問題なんだなあって思わせてくれる。
あ、映画の中にはちゃんと憎み切れる悪人や正義の警察もでてきますのでご安心を(?)

主人公の生き方はそんなに理解も共感もできないけど、でもちゃんと笑えて泣ける素敵な映画でした。
カムイ

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