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蜜蜂と遠雷のmicaのレビュー・感想・評価

蜜蜂と遠雷(2019年製作の映画)
4.8
こんなに時間を忘れる映画を初めて観た。どれだけ引き込まれる映画でも、あとどれくらいかなぁと時間を確認してしまうくせがあるのですが、最後まで時計を見ずに観終わった映画はこの作品がおそらく初めて。それくらい、最初から最後まで映画の世界に浸ってしまいました。

なにがそれだけ素晴らしいのか、言葉にしたいのですが、うまくできないことがもどかしい。でもできるだけ、言葉にしてみたい。

まずのっけから、雫の叩きつける音に心を掴まれます。そして訳ありなことを感じ取らざるを得ない女性が現れ…ヒロインの亜夜のほか、家族と楽器店の仕事を持ちながらピアノを続ける明石、そして亜夜と並んで「向こう側」の人と明石に称されるふたりの男性、コンクールの優勝を期待されたマサル、謎の新星だが巨匠の推薦文をもつ風間塵。4人がそれぞれ交錯しあいながらコンクールが一次、二次、本選と進んでゆきます。

それだけ、そう、ただそれだけなんですが、なぜこうも心を動かされるのだろう。

音楽の素晴らしさだけではなく、そこに人と人とが絡み合い、感情がゆらぎ、過剰な説明は省いて余白のある物語を作っているからでしょうか。カメラワークがものすごい好みなのも個人的には大きかったです。

俳優陣も、よくぞこれだけ揃えたなと驚きました。松岡茉優さんは、今までに見たことのない松岡さんで…表情の作り方がすごい…!松坂桃李さんはうまく存在感を消していて三人の天才を引き立たせていたように感じました。森崎ウィンさん、鈴鹿央士さん、おふたりともそれぞれの役の独特さを表現していて素晴らしかったです。メインの4人の他にもたくさん言及したいですがキリがないのでおひとりだけ。斉藤由貴さんの存在感に、ぞくぞくしてしまいました。かっこよかった……。

いちばん感動したのは、月を見て、連弾を始めるシーン(詳細は伏せます)。好きな曲だったというのもありますが、ふたりの感情が交わって、変化していくようすが言葉を介することなしに伝わってきて、心に沁みわたりました。映像でしかできない極上のシーンでした…。海のシーンも好きです……。

べた褒めしてますが、演出が過剰だと感じるときはあったし、本選のときに真上から手だけ映すアングルが多かったのも気になりました。でもそれは瑣末な問題です。いつまでも余韻に浸っていたい映画でした。
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