雑記猫

ウエスト・サイド・ストーリーの雑記猫のレビュー・感想・評価

3.7
 舞台や1961年公開のオリジナル版は未見。舞台で上演するには違和感のないストーリーなのだろうが、映画として描くにはかなり駆け足で唐突な点が目立つのが正直なところ。本作の鑑賞姿勢としては、まず歌とダンスを堪能し、そのうえで時代背景や移民問題などを頭に入れたうえで物語の文脈や構造を解きほぐしていくという形が理想的なのだろう。60年前の作品をオリジナルの時代設定のままでリメイクしていることもあり、登場人物たちの心情に感情移入しながら観る作品というよりは、歌と踊りのある歴史の勉強という印象。オリジナル版を予習して、それと比較しながら観た方が面白いのだろうなと思いながら鑑賞した。とはいえ、60年前の作品にも関わらず、そこで描かれている人種問題や貧困問題が現代にも共通しており、テーマ自体に古さはない。それが本作を現代にリメイクした一番の肝なのだろうが、皮肉なものである。

 主人公のトニーとマリアの恋物語に関しては、「詳しくは『ロミオとジュリエット』を読んでくださいね」とばかりに、とんでもないスピードで仲が進展していくのであまり言及することもない。一方、本作のテーマを最も背負っているのが、ヒロイン・マリアの兄ベルナルドの恋人であるアニータ。プエルトリコ移民としての貧しい生活の中でも幸せを得ようと奮闘するも、恋人のベルナルドは死に、彼の妹のマリアからはある種の裏切りにあい、それでもマリアのために身を挺して行動するも性的暴行を受けて、最後の最後で激昂するアニータ。本作のストーリーの軸は移民問題と貧困問題だが、彼女の場合、そこにさらに女性差別までがのしかかっており、彼女の最後の最後での「やってられるか!」と怒りを爆発させる場面で観る側も冷や水を浴びせかけられる。前述したが、これらの問題が60年経っても全く解決していないところが本作を今作る意義なのだろう。こういった内容を描いておきながら、現在、主演のアンセル・エルゴートが少女への性的暴行でスキャンダルの真っ只中にいるため、どういう気持で鑑賞したものかとも思うのだが…。

 アニータやベルナルドの姿からプエルトリコ移民の微妙な立ち位置が垣間見える一方で、地元のアメリカ人たちのギャング団ジェッツのメンバーたちの、抗争前は敵対するプエルトリコ系ギャング団シャークスに対して威勢よく息巻いていたにも関わらず、いざ抗争で死者が出ると途端に皆揃って狼狽する姿から、彼らも貧困問題のある種の被害者であることが浮かび上がってくる。警察署での”Gee, Officer Krupke”の一幕から、彼らがそのことにいくらか自覚的なのが伺われる点もやるせない。

 ほぼほぼ途切れることなく頭から終わりまでずっと歌が続くため、ミュージカル映画としてのカロリーはかなり高い印象。ミュージカルはあまり詳しくない自分でも、「お!聞いたことがあるぞ!」と思う曲が多いのは、さすがミュージカル映画の金字塔のリメイクといったところ。ダンスシーンのキレが非常に良く、”America”と”Mambo”のドレスのはためきまで計算された映像の心地よさは格別である。衣装の効果か、男性も女性も皆、異様に肉感的でセクシーにフィルムに焼き付けられており、この点もダンスの躍動感を高めている。

(追記)
 ジェッツもポーランド系アメリカ人なので、彼らも地元のアメリカ人ではなく移民でした。失礼しました。
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