Mashirahe

キャッツのMashiraheのレビュー・感想・評価

キャッツ(2019年製作の映画)
3.6
遊園地みたいな建物にものすごい人混み。はぐれないように手を繋いでいたのかもしれない。キャッツを見に行くと言われ出かけた夜があった。キャッツとは何かと聞くと劇だと言う。その頃の僕にとっては劇と言えば学芸会のそれのことで、お気に入りは「はだかの王様」だった。当然そういうものだと期待を胸に席に着き見ることになったミュージカル版は……
ただただ長くてさっぱり何が起きているかわからなかったんだと思う。覚えているのは妙に煙かった都会の空気と、舞台上の狂騒にすっかりうんざりして、そわそわと終わる時を待っていたことだけである。
あれから十余年、自分の周りもすっかり様変わりした。劇に連れてきた一人にはもう二度と会えないし、顔を合わせる友人も日々減っていき、ずいぶんと寂しくなった。
そんなある日この作品が映画化されると聞いて、もしかしたらあの日のかけらを取り戻せるんじゃないかと淡い期待を胸にひとり劇場に向かった。
やはりストーリーはさっぱり覚えていなかったけど、CG処理された人間は気持ち悪く慣れるのに時間がかかったし、露悪的と言うか、猫の強か、あるいはキモい部分を表現しているジェニエニドッツのシーンを直接描いたのはなかなか冒険しているなと思ったし、ジャンルを跨いだ楽曲で猫の性質をきっちり表現する作曲者の手腕に半ば心酔した(スキンブルシャンクスの13拍子タップダンスは圧巻)し、ダンスの凄まじさも売りなはずなのにVFXやワイヤーアクションで誤魔化せる映画でやるミスマッチを感じたし、でもやはり看板曲のメモリーでは鳥肌が立ったし、自由に猫の世界を描くT・S・エリオットの想像力と、それをある種の神話というか昇天譚?なんと言えばいいのだろう?一つ上の世界へと至る物語に纏めたウェバーの視点はすごいなと思った。
つまり、十余年知恵をつけてもやっぱりわからなかったということだ。
ただ、こんなわからないものをただ愛し、あるいはインテリぶる為にありがたがり、あるいは単に話題に乗遅れまいと人々が劇場に押しかけるあの時代の熱狂、それに乗せられて子供を連れてきたあの人を思い出し、少し羨ましくなった。
彼女はあの後周りに何と言ったんだろう?見栄を張って王様は裸じゃないと言ったのだろうか?
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