「寅さんがいてくれたらなぁ。」
映画としてどうこう言う前に、そう思いました。
そして、それがすべてだと思いました。
単なる寄せ集めじゃないかとか…、
満男の初恋その後なんかどうでもいいとか…、
さしたるストーリーなんかないじゃないかとか…、
桑田圭祐の歌唱が合わないとか…、
そんなことはどうでもいいです。
分断と憎しみ、拝金主義が横行する現代、寅さんがいてくれたならば、もう少し世の中は生きやすくなるんじゃないかなと思えてきたのです。
富める(と言ってもたいしたことのない)インテリたちと、貧困に喘ぐ労働者たちの、分断と憎しみはますます広がるばかりです。
寅さんはインテリにも媚びず、さりとて労働者たちを先導するのでもなく、軽やかに世の中を生き、このふたつの世界を結び付けてくれたのではないでしょうか。
「額に汗して、油にまみれる労働の尊さを」なんのてらいもなく、ユーモアを交えて語ってくれたことと思います。
柴又の寅さんは、ちょうど、ゴッサムシティーのジョーカーの正反対の立場にあって、僕たちを支えてくれただろうと思うのです。
女性関係でも生き方でも不器用で悩むことばかりだった僕が、まがりなりにもこうしてまっとうに生きていられたのは寅さんのおかげ、もちろん、渥美清演ずるところの寅さんばかりでなく、世の中にいる寅さん的存在の数々によって支えられてきたからだと思っています。
そうであることを再確認できたというだけでも、この作品を見た価値がありました。
もちろん、過去の作品を見ているという前提ではありますが。
2020/1/4 1:42 1,313-4