あとくされ

男はつらいよ お帰り 寅さんのあとくされのレビュー・感想・評価

5.0



2021/03/21鑑賞・BSテレビ

今回は老人が病院で孤独をかこつ暮らしをしているのがやけに胸に響いた。ああいう心境がわかってしまう。俺も老けたな、こりゃ。

─────



これは満点をつけてしまう。なぜなら点数が付けられないから。入り込めないところもあったけど、それは自分の事情でしかないし、そんなことどうだっていいくらいに車寅次郎こと渥美清の四角い相貌をスクリーンいっぱいに見られたのだもの。感涙である。

かつての名優たちは、今現在の盟友になって脳裡を去来する。映画の方でも、過去作をプルースト的想起でもってふっと浮かび上がらせて。

今の日本に、かつて寅さんが映った現実が地続きであることが信じられないくらいなのだけれど、現代の東京をゆくミツオの視点から、やはりそれは重なり合える風景なのだなと感慨。

そうそう、ミツオと言えば、《男はつらいよ》シリーズを追いかけてきたファンならハッと気がつくであろう、ミツオの風貌がそこにある。ちゃんとミツオが育った姿なのだと納得できる演技を、吉岡秀隆さんはやってくれてる。サイコー。

主題歌の桑田佳祐さん。これは最初、情報番組だかで見た予告だと違和感があったのだけど、劇場で見ればなんのことはない、馴染みのサザンの桑田佳祐ではなく、男の挽歌を歌い続けてきた日本人としてしみじみと「男はつらいよ」を歌ってくれた。

映像も小憎くて、じんわりノスタルジックに、もしくはアナクロに、ちゃんと男はつらいよの画の中で歌っているように映しているのだ。

でも、そこに車寅次郎だけがいない。笠智衆もいないと言えばそうだけど。それが寂しい。美空ひばりがAIでもって歌声を復活させたのがこの間ニュースになっていたけど、ファンとしては渥美清もAIで啖呵売復活〜とか、そこまでじゃなくても、ミツオあたりに送った手紙でも出てきてその読み上げで「幸せかい?」とか、あのズルいズルいキャッチコピーを語ってくれたりしたら…涙腺は簡単に崩壊することでしょう。。

でも、でも、震えるほどに感動したのはホント。

みんな、みんな本当に歳をとった。
これは池田理代子の『ベルサイユのばら』の14巻を読んだ時にも感じたことだけど、ひとは誰でも人生の伴奏者を求めているのかもしれないね。その人に会うことでさ、お互いが別個に流れていた時間があることにハッと気づく、そういう瞬間をくれるようななじみの顔がさ、あったら、きっといいんだろうなぁとか思うんだよ。寅さんのシリーズを追ってきた人の時間もさ、この50作目に登場する役者陣の顔からいろいろ感じるところがあるんだと思う。ぼく自身がそうだったように。

パンフレットも充実してる。こんなに分厚いパンフレットは見たことがないかもしれない。じっくり、じっくり余韻に浸りながら、2019年、令和元年を締めくくることにするよ。
あとくされ

あとくされ