このレビューはネタバレを含みます
「優しさ」についての物語。
「優しい」とはどういう事か。
山田洋次はここで一つの答えを提示している。
勿論これが正解というわけではないが、多くの人の心を捉えてきた。
現代日本人が観てどう感じるか。
劇場はその実験場となる。
私はこのシリーズが好きだ。
母が好きだったので子供の頃からよくテレビで見ていた。
ただ、劇場で観たことはなかった。
だから楽しみにしていた。実際観てみて、贅沢な体験だと思った。
シリーズ物としては4点以上だろう。どう考えても過去作のファンでなければ感動出来ない笑
全く過去作を見たことない人が行っても金の無駄だからオススメしない。
登場人物たちが良い感じに年取ってるのが良い。「良い感じ」というのは一般的な良い感じという意味ではない。そこがおそらく山田洋次のリアリズムなんだと思うが、ガチで年取ってるんだ笑
くたびれてる。枯れてる。萎れてる。役者がちょっとそれっぽいメイクして老けた芝居してるんじゃない。そこにいる一人の人間として老けている。人生を経た皺が、シミが、髭が、白髪、脂が色が、その顔に刻まれている。つまり映画と呼ぶにはリアル過ぎる笑
本当に性格が悪い。やはり巨匠だ。
吉岡秀隆の芝居は期待の上を行くことはなかった。あの目に余計なサイコパス感が入っていたし。でもモノローグは流石だった。男だが子宮に来る声だった。
後藤久美子は芝居と呼ぶにはお粗末だったが、80年代をそのまま持ってきたような喋りで若い頃とリンクしていたように思う。とにかく若き日の彼女の可愛さに心が持ってかれる。
別れ際の寅さんの「体だけは丈夫だからよ」の持つ寂しさ…
さくらがさらっと言った「お兄ちゃんがいつ帰ってきても良いように」。。。
色々と憶測を呼んだCGも品があったし悪くなかった。
茶の間に新設されていた手摺も暮らしぶりが見えて良い。
どこまでもプラトニックな物語の中で強烈な印象を残すのがキスシーンだ。
生々しい。フレンチキスなのに。しかも2回する。
でもキスシーンよりハッとしたのが手だ。満男が泉を労わる手、泉が満男に重ねる手。そういえばサイン会では握手していなかった。
画面の中心に手が来た時、監督が何を撮りたかったのかがはっきりとわかった。
最後に男はつらいよ史上最高の台詞と言っていいあのシーンが出てきた時、さすがに涙腺に来てしまった。意地悪だ。いや、ありがとう。これが欲しかった。
「満男は間違ったことをしていないと思います」
全力で肯定してくれたおじさんの言葉。
まるで自分が言われてるような気がしてくる。いやいや満男に失礼だろ勘違いするな。
間違いなく満男は寅さんの甥だよ。ユリちゃんも間違いなく満男の娘だ。あの感受性の豊かさ。慈しみたくなる。慈しむべきものだ。