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テッド・バンディのひこくろのレビュー・感想・評価

テッド・バンディ(2019年製作の映画)
4.2
テッドが主人公の映画だと思えば、見方は簡単だ。
無実の男が、社会によって理不尽にも死刑にされていき、それに抗う話。
もしくは、殺人鬼が、マスコミや裁判所を巻き込み、無罪を勝ち取ろうとする話。
このどっちかになるだろう。でも、映画はそうは収まらない。
もう一人の主人公、リズの存在によって、実話がミステリーへと昇華していく。

自分の前では、明るくて楽しくてやさしくて愛情深い恋人が、もし連続殺人鬼なのだとしたら。
リズは必死にテッドを信じようとするが、疑念はどんどんと深まっていく。
テッドの言葉も、警察の捜査も、裁判すらも、本当のことは何も明らかにしてくれない。
わかっているのは、自分が感じている愛情だけだ。でも、その愛情はテッドの無実を証明するものにはならない。
愛に盲目になれれば楽だとも彼女はわかっている。でも、それもできない。
信じたいのに、信じられない。そんなリズの抱える苦しみこそが、この映画の核にはあるような気がする。

実話を基に、脚色を加えるのではなく、解釈を変えることで上質なミステリーにしてみせた。
実録ものを描くのに、こんなやり方があったのかと思わされるような面白い映画だった。
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