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キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのwhiskyのレビュー・感想・評価

3.8
ネイティブアメリカンの一族が土地を追われ、強制移住させられた先の地で石油が出たことから逆に巨万の富を得て、その富を白人が横取りしようと政略結婚と殺害を繰り返し、やがて破綻するという物語。
レオナルド・ディカプリオ演じるアーネストはアイヒマンに通じるところがあるなぁ、とか、ミルグラム実験のこととか思いながら見ていた。人は、絶対的な権威から行為を正当化されたら、殺人すら正当化してしまうのだ。
モリーたちネイティブアメリカンがまとまった金を使おうとする際に行政の許可を得るシーンがある。無能力者として、莫大な資産を行政に管理されていたということだ。ネイティブアメリカンは白人より劣った存在との社会的合意を下敷きにして、30人近くの殺人が正当化される。
人間の心の不条理、弱さがアーネストを通して如実に描かれている。戦場から帰還したばかりとはいえ、給仕兵として戦争を間接的にしか経験していないごく普通の男が、大きな権威と多数の意見に流され、自らの行動を他人の基準で決めて行く。人は本当に正しいことを追求するのではなく、自分がこうあって欲しいと思う正しさを選び取る。その「こうあって欲しい」の部分で、他人に丸め込まれたり流されたりしてしまう。だからその選択に一貫性があるとは限らないわけで、時にはその選択の帰結に強く後悔することもあるけど、それでも大きな流れから逃れられない。妻と子を愛していながら妻の親族や妻自身の殺害計画に荷担するという理解しがたい行動は、実は誰にでも起こりうることなのではないか。
心の葛藤とか大げさに扱われることもなく、ドラマチックな盛り上がりとかあまり感じなかったが、人間の心の弱さ、恐ろしさがこんなに当たり前に描き出されているのは、まさに巨匠のなせる技ということか。まったく悪人さを感じさせないように叔父を演じているロバート・デニーロ、人の心の弱さと葛藤を表現したレオナルド・ディカプリオも素晴らしかった。
ただ、3時間半は長い。途中で中だるみもせず最後まで見られるけど、3時間半まとめて確保するのはけっこう気合いがいるので、もう一度見たいけど少し億劫にも感じる。
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