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幸せへのまわり道のyukacafeのレビュー・感想・評価

幸せへのまわり道(2019年製作の映画)
4.0
エミー賞を4回も獲得しているほどの人物にもかかわらず、これまでフレッド・ロジャースのことは全く知らなかったのだが、今の時代に取り上げるに相応しい正直で誠実な人柄に、心がじんわりと温かくなった。

フレッドを演じたトム・ハンクスは、エッジの効いたキャラクターが上手い俳優という印象があって、一見穏やかなだけに見える子供番組のホストは、彼が選ぶ役にしては地味なのでは、と思っていた。

ストーリーが展開するにつれ、聖人のように見えるフレッドも生身の人間で、意識的に怒りをコントロールして、自分や他人を許せるように努力してきたことがわかってくる。穏やかで深い包容力を持つ一方で、人間らしい部分もあるという厚みのある人物像がとても魅力的だ。

子供相手だからと言って、問題をごまかすことをしない。君はそのままで良いのだと、画面の向こう側にいる一人一人に語りかける。トム・ハンクスがすごいのは、一見大仰になりがちな人物をあくまでも自然に演じて、観客を説得してしまうことだ。苦しんでいたロジャーに手を差し伸べる一連の行動も、彼なら当たり前のことだと思わされる。ロジャーが変わるきっかけとなるレストランのシーンは必見。

This Is Us以来、すっかりファンになってしまったスーザン・ケレチ・ワトソンは本作でもとても魅力的で、どっしり構えて夫を支える妻という役どころを演じさせたら、彼女が今一番なのではないか、と思ったほど。

ピアノジャズを中心とした音楽、場面転換の際に映し出されるミニチュアの街並みも、フレッドの番組そのもののように心地良く、軽やかな気持ちで劇場を後にした。

それにしても、作品の個性を無視して、邦題に安易な「幸せ」をつけた作品は一体いくつあるのだろう。原題は、子供番組の”Mister Rogers' Neighborhood”から来ているのは明らか。作品のメッセージは曲解せず、できるだけそのまま伝えてもらいたい。
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