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インソムニアのutakoのネタバレレビュー・内容・結末

インソムニア(2002年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

アラスカ、ナイトミュート。24時間日の沈まない田舎街で起きた少女撲殺事件解決のため、ロス市警から応援に派遣された主人公ウィル・ドーマー(アル・パチーノ)と相棒のハップ・エッカート(マーティン・ドノヴァン)は、エリ・バー(ヒラリー・スワンク)をはじめとする地元警察から敬意を持って歓迎される。時同じくして、ロス市警ではドーマーがかつて担当した捜査について内務監察部による調査が進んでいた。

冒頭「内部調査に応じる」とこぼすハップに怒りを露わにするドーマー。なんの内部調査?過去の捜査に不正でもあったの?なんて印象を与えてきます。不穏な空気を漂わせつつナイトミュート事件を追う中、早々に犯人と対峙する。霧深い見通しの悪い場所で犯人と銃撃戦となり、ドーマーがハップを射殺してしまいます。誤りだと弁解するドーマーですが、故意だとドーマーに怯えながら息を引き取るハップ…内部調査絡みで、ドーマーが意図して邪魔者を消したように見えるのです。その後のハップ殺害の証拠隠蔽もぬかりなく悪のように描かれるドーマー。
数日後、少女殺害の犯人とおぼしき人物(ロビン・ウィリアムズ)から『ハップの殺害現場を見た。取引しないか』と持ちかけられるのですが…。

刑事ものですが、アクション作品ではありません。正義と悪の境に苦悩するベテラン刑事を描いており、刑事ものとしてはよくある普遍的なテーマながら、捻りの効いた効果を盛り込んだ深みを感じる作品でした。
過去と現在の問題を抱え白夜の町で不眠症となり、前後不覚になる感じがタイトルとリンクします。心の闇・葛藤の表現とも重なり、犯人との取引に応じ自らの不正を正当化てしまうのか?と、ハラハラ目が離せませんでした。

長い刑事経験と強引さのある捜査方法で、自ら悪徳刑事と揶揄するドーマー刑事。周囲から尊敬される側面も描きながら、手際のいい証拠隠蔽といい怪しげな行動の数々…不眠症により何が正しい判断なのか解らなくなっていき、主人公は一体どんな人物なのか本質が掴めず、もしや本当に悪徳なのか?と、観る側も前後不覚になってくるのです。

しかし後半…滞在中であるロッジの店主とのシーンで、その曖昧だった印象が明確になります。内務監察部の調査対象の事件について…綿密な捜査と分析により検挙した犯人が、証拠不十分で釈放されつつある。ただただ悪は裁かれるべきだという正義心が、行きすぎた証拠捏造へと駆り立ててしまったのだと。懺悔にも似た独白から彼の真の人間性が見えてくるんですね。

ラストは刑事のプライドと情熱を貫いた姿に、静かに熱いものがこみ上げました。悪を許せない強い正義感を持った人であるからこその葛藤ややるせなさが染みてくる、印象操作が秀逸な作品でありました。

アル・パチーノとロビン・ウィリアムズの存在感と語らない芝居の説得力はさすがでしたね。ギャング役等で悪のイメージのあるパチーノ、善良な役のイメージのあるロビン、このあたりのキャスティングも今作では面白い印象操作になってたんじゃないかと思います。
ベテラン刑事を追い込める強さと、知的さをもつ新人刑事役にハマるとキャスティングされたヒラリー・スワンクもバッチリハマっていて素晴らしかった。

個人的に、内包する葛藤がダークナイトシリーズに通づるものを感じたりもして、ノーラン監督が惚れ込んでリメイクしたのもうなづける作品かななんて思いました。今更ですが観て良かったです。

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