三樹夫

機動戦士ガンダム 逆襲のシャアの三樹夫のレビュー・感想・評価

4.6
アムロとシャアの最終決戦という映画だが、アクシズを地球に落とそうとするネオ・ジオンとそれを阻止しようとするロンド・ベルの攻防で、最後はもはや観念というようなとんでもない終わり方をする。革新派の革命についての内ゲバみたいな話で、それが最終的にララァをめぐる痴話喧嘩と何やってるんだこいつら感。Zではダカール演説の後に2人で乾杯していたのに。逆シャアは戦闘も物語もハイスピード高密度で、一度観ただけではよく分からない内容かつ、ある程度過去作品を観てないときついガンダム初心者お断り作品であるが、高密度の戦闘作画やドライブしまくりの台詞まわしなど、いきなり逆シャアを観てもなんかよく分からんが凄いものを観たとはなると思う。

めぐりあい宇宙のラストでカツ・レツ・キッカが一番アムロと通じ合っていることで、子供たちのニュータイプへの期待を見せた富野由悠季だったが、当のカツがZではクソガキになってたり、この映画でも高いニュータイプ能力のクェスがさらにとんでもねぇクソガキだったりハサウェイも大概だったりで子供への絶望と嫌悪感が募ってないだろうか。「ここ数年病気の人が多くなったんじゃないか。 その代表選手としてクェスを描きました」とのことだが、自分の娘もクェスと同じぐらいの年齢だっただろうにその影響なのか。子供は嫌いだ、図々しいから。
しかし子供も碌でもなければ大人も碌でもないと全方位で碌でもないことになっている。アデナウアー・パラヤしかり、自分はララァに母親であることを求めるくせに父親を求めるクェスから逃げ利用したシャアしかり。アデナウアー・パラヤは空港でミライが職員と話してるのに割り込み、なんか推薦状持ってるなと気付いたら一目散に保身に走り出すので、こいつはどうしようもないクズの政治屋だと描写されている。

シャア=由悠季がこの作品で頂点に達し、シャアは純粋すぎる人よって、自分のことを他人にそう言って欲しいのがダダ洩れしてる。しかもその台詞を言うのがララァとミライという母親的な女性というこじらせっぷり。シャアは、人類はニュータイプにならなくてはならない、そのために地球の重力の鎖に縛られたオールドタイプが邪魔と、つまり人類は革新しなければならず、それを阻害する愚民どもが邪魔で愚民どもを殺してでも人類の革新を果たすというので、地球の重力の鎖を断ち切るがためアクシズを落とそうとするが、どう考えても由悠季の考えてることやん。2023年でも現実の人類に対してニュータイプ云々言ってるし、自分のことをオールドタイプとも言ってるし、ニュータイプの成り損ないのシャアとものすごく重なる。しかしサイコフレームの共振でたくさんの人が集まり一緒にアクシズ押して何気に絶望が和らぎ終わるが、一人で絶望して一人で期待を感じるという由悠季の脳内世界みたいな映画だ。嫌悪し自身を苦しめるガンダムではあるが、それでもガンダムによって自分の元に色んな人が集まるのに何だかんだ救われてるのかな。シャアはナナイの胸に顔をうずめているので、このおっさんまた女性に母親の代替を求めているというのが分かる。
アクシズでのνガンダム対サザビーは、ア・バオア・クーでのガンダム対ジオングと同じになっている。サザビーから脱出ポッドが飛び出すのは頭だけになったジオングと一緒だ。アクシズで内での口論は、革命が成功しても権力の首がすげ変わるだけで最も嫌悪していた権力側に自分がなることに過ぎず、結局は官僚制と衆愚政治に迎合するだけか、それを嫌い社会とは離れ世捨て人になるだけという、左翼革命のイメージかな。富野ガンダムは戦うことの嫌悪感や悲惨さが節々から出るが、逆シャアではケーラの死亡では戦うことの嫌悪感があるが、基本的にはどんなキャラもすごくあっさり死ぬ。前のファーストガンダム映画3部作は反戦だったりニュータイプというかニューエイジ思想がテーマになっていたが、逆シャアはテーマを挙げるとすると革命のように思える。

ネオ・ジオン、正確には新生ネオ・ジオンのものすごいドイツ感。ネオ・ジオン万歳の老人たちのジオンの残党というか、現実世界で言えば老いてもなお若いころ信奉したナチスを未だに信奉しているような嫌な感じ。レズン・シュナイダーのシュナイダーはもろドイツ系の名字。スペースノイドや難民がどうとか言うが、レズンだけでなく整備工まで強化人間に対するあたりの強さなどネオ・ジオンのいやーな感じが漂う。
連邦は言わずもがなというか、とんでもなく無能のクズへとさらに腐敗。嫌われ過ぎてスペースノイドの協力が得られずシャアによる軍事力整備を発見できなかったのはベトナム戦争のアメリカのイメージか。

由悠季は宇宙空間の表現が上手く、宇宙での戦闘しかないこの映画は映画という作画のアドバンテージも得て宇宙空間の表現が良い。上へ下へ右へ左へ奥へ手前へとMSが縦横無尽にハイスピードで移動し、全方位に広がる宇宙空間を感じられる作画になっている。
戦闘はνガンダム対サザビーが一刀流対二刀流になっているように殺陣が基本になっており、敵の攻撃を避けビームライフルを撃ち間合いを詰めて攻撃するという一連の流れがかなりの高密度とハイスピードで描かれている。
レズンが戦艦かと思うほどとんでもねぇビームを撃ってくるνガンダムに、その攻撃を避けるレズンと、νガンダムもレズンも両方ともとんでもねぇというのが分かる。また戦闘以外でも、シャアがナナイの腰にちょっと手をふれ会議室から出るので肉体関係があるんだなとわかる等、逆シャアはこういった高濃度に情報が盛り込まれた作画の動きで分かるのがそこが良い。

ガンダムではZで登場した全天周囲モニターやMS移動用の通称下駄と呼ばれるベースジャバーが引き続き登場。全天周囲モニターは360度ビューの、コックピットを子宮のイメージとするものだろう。作画の手間も省けるというのもあるだろうが。コックピットが子宮のイメージは『ブレンパワード』と『∀ガンダム』で頂点に達する。またそれまでのレバーではなく球体型の操縦桿や、無重力空間移動用のワイヤーガンなど、こういったSF的アイディア新作のたびに投入されるのが良い。F91でもビームシールドのアイディアが投入されるし、こういうSF的アイディアが観ていて楽しい。
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