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Fukushima 50のyuseのレビュー・感想・評価

Fukushima 50(2019年製作の映画)
4.0
東日本大震災時の福島第一原発事故を、東京電力職員の視点から描いたノンフィクション映画。「fukushima50」とは、福島第一原発で事故対応に当たっていた従業員が当初50人ほどと海外メディアが報じて名づけていたことに起因する。

東日本大震災をしっかりと描いたメジャーな邦画は今まであまりなかった認識なので、3.11を現実に即して映画化されたこと自体は大賛成だった。
しかし、個人的には少し「シン・ゴジラ」のようなオーバーな政府関係者の振る舞いなど、エンタメ性が強いように感じてノンフィクションになりきれていない部分が気になってしまった。

それでもストーリーはとても感動するシーンが多く、地元福島を守るために必死で原発の暴走を阻止しようとする従業員たちの覚悟と勇気、彼らが家族と再会する時の感動など涙をそそられるシーンは多かった。
また、何と言っても東電職員の知られざる奮闘ぶりは、全国民が知るべきだしもっとメディアで取り上げられるべきだと思った。

ちょっとエンタメ性が強く賛否が分かれることも頷けるが、日本人なら一度は見て欲しい映画。



↓以下はネタバレを含むレビュー
【Motivation(鑑賞動機)】
東日本大震災の福島第一原発事故を題材としたノンフィクション映画ということで、当初予告編を見た様子だとエンタメ性の強い映画で観る予定はなかったが、賛否に関わらず初めて東電の職員にスポットライトを当てられた映画だと思ったので、気になり鑑賞することにした。
本来なら映画館で鑑賞しようと思っていたが、コロナのご時勢なのでU-NEXTのストリーミング配信で鑑賞。


【Scenario(内容)】
2011年3月11日午後2時46分、東北地方沖を震源としたマグニチュード9.0の大地震が発生した。東京電力の福島第一原発では、福島第一原発 1・2号機当直長の伊崎利夫(佐藤浩市)や福島第一原発所長の吉田昌郎(渡辺謙)らは、突如とした巨大地震に原発への被害を危ぶみながら混乱に陥っていた。
その50分後、巨大津波が福島第一原発を襲い、全電源喪失(ステーション・ブラックアウト:通称SBO)が起こり、福島第一原発を含め大停電が起きてしまう。
福島第一原発の様子を見に行った従業員たちは、想定外の大津波によって原発のディーゼルエンジンが浸水したことで、非常用電源すら作動しなくなったためSBOが起きたことを突き止めた。
SBOが起きると原子炉を冷却できなくなってメルトダウンが起き、大量の放射線が放出されることを伊崎と吉田は悟る。

吉田はすぐに消防車を派遣するよう要請するが、なんとか1台出せるような状態でとても間に合わない。
伊崎は、従業員たちを2人1組にして第一原発の様子を見に行かせる。伊崎自身が様子を見に行こうとしたが責任者だからという理由で周りに止められた。
大森(火野正平)ら2人が第一原発の様子を見に行くが、たった1時間で相当量の放射線を浴びていることが分かった。
次に矢野(小倉久寛)と工藤(石井正則)が様子を見に行くが、あと一歩のところで原発に近づくことが出来ず、その上放射線量もあと一歩のところで命に関わるほどの危険な量を浴びていた。
一方吉田は、伊崎らの現場と密にコンタクトを取りながら、状況を正確に教えるように福島第一原発第1班当直副長の加納(堀部圭亮)に催促され、板挟み状態となり怒りを露わにしていた。
その上、内閣総理大臣(佐野史郎)が直々に現場を視察に来ることになり、ただでさえ忙しい上にさらに総理の対応に追われることになる。
総理が吉田の元へ現れ、現場の状況も何も分からないまま「一刻も早く事故に対処しろ」と叱咤する。

伊崎らは、ベント計画といって放射性物質を含む気体の一部を外部に排出させて圧力を下げる緊急措置をSBO下で行おうとしていた。電力供給のない中でベント計画を実施することは世界初である。
第一号機に愛着を持っていた本田(和田正人)は自ら一号機に向かうことを志願し、若者には行かせたくないという思いもありつつも、彼の気持ちの強さに負けて依頼する。
しかし、第一号機の煙突から煙が出ていることを確認した伊崎は、すぐに本田に戻ってくるよう指示する。
本田が伊崎の元に戻ってきたその時、第一号機が水素爆発を起こしてしまう。
第一号機爆発は日本だけでなく世界中のメディアが大々的に報じた。
伊崎は、5名だけをベント計画のために現場に残して、他の従業員を全て吉田の元に撤退させることを決意する。

吉田と合流した伊崎は、お互い若い頃から共に働いていた仲であるため、再会出来たことを喜び合う。
そんな中3号機も水素爆発を起こしてしまう。このまま2号機も水素爆発を起こせば大量の放射線量が排出され、東北地方や関東地方の広い地域で被曝してしまい、日本壊滅が想定されていた。東電職員一同は、必死で2号機が水素爆発を起こさないよう神に祈るしかなかった。

東電職員たちは、体育館に避難した家族から安否確認と応援のメールを受け取っていた。
伊崎は、娘の遥香(吉岡里帆)に以前彼女の婚約相手がバツイチ子持ちであることに激怒して反対したことを詫び、最後に絵文字を付けて送信した。遥香は、父が初めて絵文字を使ってメールを送ってきたことに笑い、実際に会ってくれるまでは許さないと返信した。

一方現場に残ってベント計画を実行していた5名は、第二号機の圧力が0になったことを伝える。どうやら第二号機の壁の一部が崩落し、そこから放射線量が漏れたため圧力が回復した様子である。
第二号機が水素爆発を免れたことに一同は大喜びした。
東電職員は各々家族の元に戻り、伊崎は避難所の体育館で娘の遥香や妻の智子(富田靖子)と再会し喜び合うのだった。

2014年春、桜が咲き誇る中伊崎は再び福島第一原発の元に訪れていた。昨年癌によって亡くなった吉田を思い出しながら、彼の言葉である「我々は何を間違っていたのか、それは自然を甘く見すぎていたことである」を回想しながら物語は幕を閉じる。

福島第一原発の事故対応をする作業員たちにスポットライトを当てて、彼らがその時どんな行動を取っていたのか、どんな心境だったのかを丁寧に描写した作品だった。物凄くそういった描写も大事だが、個人的にはもっと彼らのプライベート家族の部分にも踏み込んで欲しかった。
前半は、津波の描写や水素爆発のシーンなど震撼させるような描写が多く、後半はヒューマンドラマに物凄くフォーカスした作りになっていて全く飽きなかった。特に後半は泣かされるシーンが多々あった。家族とのメールのやり取り、海外の軍隊が日本を助けに来てくれる描写、伊崎と吉田のトイレでの会話、家族との再会。
とても王道をいった映画の作りで美化している部分もあることは否めないが、とても感動的なヒューマンドラマとして良く仕上がった作品だった。


【Looks(世界観・演出)】
個人的に今回の作品の演出は、東日本大震災時の福島第一原発事故における東電職員たちという実話を描いているはずなのに、どこか「シン・ゴジラ」のようにオーバーなものが多く違和感を抱く部分もあった気がした。
これがフィクション映画だったら全然問題ないのだが、東日本に住む日本国民誰しもが経験した歴史的な震災をどこかSF映画のようにしている感じが否めなかった。それが、ノンフィクション映画の重みを和らげてしまって中途半端にしている感じがした。

例えば、序盤に出てくる巨大地震と巨大津波は音と映像だけ見ると迫力が凄いのだが、どこかCGのクオリティがSFっぽさを出していて正直飲み込めなかった。
また、大地震が起きた時の「SBO!」と叫ぶ従業員たちや慌てふためく様子がどこか震災時の現実の様子と乖離している感じがした。現実なら、あれだけ大きな地震が起きたら人々はパニックして呆然とすることが多いと思うが、映画ではそうではなくみんな台詞を発している感じ、SF映画っぽさを感じてしまった。
さらに、政府の態度に関しても正直現実問題はあんな危機意識を持ってキビキビしていなかったのではないかと思う。想定外の事態が起こっているので、実体を把握することがやっとで本来はもっと疲れていたり覇気がなかったりすると思う。しかし、映画ではめちゃめちゃ東電職員に報告報告口酸っぱく叱咤していてちょっと自分が把握していた現実と違う違和感を持ってしまった。
特に佐野史郎さん演じる内閣総理大臣は、当然現実世界は菅直人総理の訳だが、あえてそうしている点はあると思うが同一人物には見えないし、そこであえて総理を出す必要はあったのかと感じた。
かなり多くの箇所で、現実と一致しない東日本大震災がそこにはあったので、個人的にはかなり違和感を覚えたんだと感じている。

また、今作品は東電職員にスポットライトを当てられていたが、これは個人的な好みになってしまうかもしれないが職員の家族のシーンももう少しちゃんと映して欲しかった。
一部伊崎の娘や妻が登場するが、娘はバツイチ子持ちの彼と婚約したいということに断固反対するというしっかりとした設定があるにも関わらず、ちょっとそれ周りの描写が劇中に少なすぎる気がして物足りなかった。バツイチ子持ちの彼は斎藤工を起用するレベルなのだから、もう少し彼の登場シーンもあって良かったと感じた。
さらに、富岡町の地元では原発によって避難させられている住民の中には、原発の存在に反対する者もいると思うが、そういった人々はあまり描かれておらず、ただ東電職員の家族が避難所で東電のジャンパーをさり気無く脱ぐシーンしかなかった。個人的には、東電職員の家族の周辺住民の原発への冷たい視線に耐えるという描写ももっと劇中に入れて欲しかった。

ただ、良い演出部分もいくつか見られた。
個人的に好きだったのは、アメリカ軍が日本へ支援物資など救助を行ってくれるシーン。9.11の時に救われたお返しとして「トモダチ」作戦を実行するシーンには涙を唆られた。
また回想シーンで、原子力発電所がいかに最先端をいった技術を使っているかを子供や若者に説明するシーンはとても好きだった。以前は原子力発電は低コストで環境にも優しいクリーンな発電方法として重宝されていた。そういったシーンが入ることで、この原発事故の悲惨さや職員の苦悩も上手く伝わってきて良かった。


【Cast(役者・キャラクター)】
やはり、伊崎利夫を演じる佐藤浩市さんと吉田昌郎を演じる渡辺謙さんの2人の名演技が光る作品だった。

伊崎福島第一原発 1・2号機当直長は、常に現場で指示を出しながら必死で原発のメルトダウンを食い止める活躍がとても魅力的だった。やっぱり非常事態時にトップの座に立つって本当に辛い。頭を下げて年配の従業員に原発の視察に行ってもらったり、チームの仲介をして仲間割れを防いだり、非常に精神的に辛い立場である。
そんな様子を佐藤浩市さんは見事熱演していて素晴らしかった。これが作品と合っているかというと、個人的にはもっとドキュメンタリータッチで合って欲しかったから違うのだが、佐藤浩市さんの演技力の高さには圧倒された。

吉田所長は、現場の伊崎から状況を聞きながら上からのなんとか対処しろと叱咤される板挟み的な立場で、正直吉田がブチ切れるシーンを見る度についこちらまで感情移入して苛立ってくるくらいだった。
渡辺謙さんらしくとても味のある演技で、あれだけ頼もしいトップがいたら従業員たちは頼りすぎてしまいそう。良くも悪くも映画らしく味のある名演技が見れて良かった。

そして何と言っても、伊崎と吉田の2人の友情シーンは個人的にはとても好きで、伊崎が吉田の元に合流してから仲の良い友達のように「(賞味期限を気にするのを見て)ここに来て体の心配をするんかw」とか、トイレでの2人の会話で「俺たちは何を間違えてしまったんだろうか」と問い正すシーンはとても印象に残った。
そして最後のシーン、天国にいる吉田を思いながら第一原発を望む伊崎のシーンもとても印象的、あのバックの桜並木も合間って東日本大震災からの時間の経過と、大惨事から静かに復興していく福島の街並みに心打たれた。

脇役も含めてキャストが豪華な点もこの作品の特徴。正直、実話ベースの今作品でここまでエンタメ性に富んで欲しくはなかったのが個人的な感想。斎藤工さん演じる会津に住む男役は、ほとんど出演シーンがなかったり、ちょい役の記者役にダンカンさんが出演していたりと、物凄くお金をかけている感じが個人的にはイマイチだった。
しかし、役者の演技レベルは非常に高いのでそれだけでも見応えはあった。


【Profound(作品の深み)】
私はこの作品を拝見するまでは吉田昌郎氏について存じ上げなかった。そして恐縮ではあるが、今までは福島第一原発事故における東京電力の対応にポジティブな印象は持っていなかった。それは、2014年に朝日新聞が世間に公表した「吉田調書」という誤報があったからなのかもしれない。
日本のマスメディアは、この福島第一原発事故に対して東京電力が一方的に対応が悪かったとして悪く報道することが多く、それに加えて東電や福島第一原発内部で何が起きていたのかをきちんと公表していないような気がしていた。

そんな中で今回のような東電職員を主人公とした映画が公開された。これは勿論東電職員を美化するような一面はあるものの、福島第一原発事故当時の東電職員たちの行動や心境を事実に忠実に基づいて作られた作品ということで、物凄く公開する意義のある映画だと思った。
あの恐ろしい第1号機・第3号機の水素爆発の裏では、東電職員たちが寝る間も惜しんで事故対応に追われていたこと。放射線を浴びて命を落とすリスクを覚悟しながら、自分たちが諦めてしまったら日本が壊滅してしまうという重圧を感じながら仕事をしていたということ。
日本国民の多くは、原発事故対応が場当たり的だと皆状況を何も知らずに批判していたが、実はその裏では汗水流して必死で放射性物質放出を食い止めていたということ。この映画では事件の内情を何も知らずに対応を急かす政府の態度がとても皮肉めいた存在として描かれていたが、自分たちもそちら側の立場だったことを思うと少し情けなくなってしまう。

この作品ではそこまで詳細には描かれていなかったが、東電職員の家族の立場だってさぞ悲惨なことだっただろう。
もちろん、福島第一原発の付近で生活していた訳なので、今までの生活に戻れなくなったという悲惨さもあるが、それ以上に家族が福島第一原発に勤めているというだけで恨んでくる近隣住民もいただろう。
この映画では、家族が東電のジャンパーをこっそり脱ぐシーンしか描写されていないが、この時家族が感じていた肩身の狭さは尋常ではなかったと思う。

舞台になってしまうが、昨年の夏に上演されたDULL-COLORED POPという劇団の「福島三部作」という作品がある。私はこの作品を拝見していないのだが、昨年の舞台作品の中で最も注目を集めた作品である。
この作品では、福島第一原発が建設された大熊町を舞台に、1961年の建設時の話、1986年のチェルノブイリ原発事故時の話、2011年の福島第一原発事故時の話に分かれていて、この町の町長を主人公とした物語となっている。
そこでは、地元に原発設置を反対する勢力と、原発を建設して町おこしをしようという勢力の対立が描かれているそうである。
そういった町内での対立を今回の映画作品でももう少し描かれていると、より現実味を増した福島第一原発事故が見えてくるのではないかと思った。

東日本大震災が他人事ではない被災者の方々にとっては、福島第一原発事故を美化したように描かれた今作品に対する視線は厳しいものかもしれない。しかし、こういった悲惨な事故は時間が経過すれば風化してしまう。そうならないためにも、今回のように事実に基づいた作品を作っていくことは重要であるし、多くの人が一度観ておくべき作品だと思う。


【Impression (印象深いシーン)】
序盤の巨大地震と巨大津波のシーン、音と映像の迫力が凄かった。映画館で観たかったと思うくらいのレベルだった。
吉田と伊崎のトイレでの2人の会話シーン、最後の吉田の葬儀の回想シーン、2014年春の桜並木のシーン。
アメリカ軍が「トモダチ」作戦で日本に救助に来るシーン。
回想シーンで、原子力発電の魅力を学生や若者に語る場面。
最後、伊崎が家族と避難場所で再会するシーン。
吉田が鼻歌を歌いながら津波に流されていく町の映像が映るシーン、そして周りの人間は皆無言であるシーン。
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