り

ホテル・ムンバイのりのレビュー・感想・評価

ホテル・ムンバイ(2018年製作の映画)
4.1
【感想】
圧倒的恐怖。ホテルという閉鎖的な空間にテロリストが侵入する。無差別に殺人を繰り返し、命乞いも聞き入れない。首謀者はデカン・ムジャーヒディーン(デカンの聖戦士)とされているが、現在も全貌の解明は進んでいない。
本作は、ホテルの従業員が職責を十二分に全うする話を美しく描いている。彼らは逃走することもできたが、「costomer is god」という日本人お馴染みの台詞を発する。特に、主人公のシク教徒は生涯一度も脱いだことの無い、勇気と高潔の象徴である「パグリー」をお客様の手当てに使用する。また、お客様を安全な場所や逃げ口に誘導している様子もかっこいい。
しかし、私が気になったのは事件の背景である。テロリストは「異教徒が私達を貧困にした」と主張している。おそらく、首謀者に洗脳されているのだが、洗脳されるだけの素地が、つまり現状への不満や怒りが溜まっていたように感じられる。言い換えれば、彼ら自身も構造的な被害者なのである。そう言いきっても、他人の命を奪った罪は消えないが、社会が悪いんだよ。
インドにおける宗教対立はなぜ生じたか。それは、紛れもなくイギリスの身勝手な間接統治であった。そして、植民地とされ、構造的に貧困が彼らを襲う。戦後、インドは独立を勝ち得、そしてバングラデシュ・パキスタンと分離していった。産業もままならないまま、貧苦に喘いでいる。彼らは思う。
「なぜ、私たちはこんなにも苦しまなければならないのか」
そこで、洗脳される。
「それは異教徒が我々を搾取しているから」
ろくに教育を受けていない状態で、つまりアッラーを絶対視かつ神聖視しているムスリムにどんな言葉をかければテロは起きなかったか。いや、どんな言葉をかけても無駄だ。そこには圧倒的な貧困と、想像を絶する困苦と怒りが蓄積されているから。
事件の引き金を引いたのはデカン・ムジャーヒディーンであり、それに共鳴したムスリム達である。しかし、引き金を引いてもそこに火薬がこもっていなければ、被害はでない。では、誰が火薬を込めたか。それは、彼らを構造的な被害者に追い込んだ、我々先進諸国に他ならない。

【要約】
「2008年のムンバイ同時多発テロ」を描写した作品。特に、ムスリムのテロリストがムンバイの五つ星ホテルを襲撃する話を描く。
り