悠

オオカミの家の悠のレビュー・感想・評価

オオカミの家(2018年製作の映画)
3.3
チリのドイツ人集落から脱走した少女が逃げ込んだ先の家で2匹の子豚と暮らす様を悪夢的に描く、メルヘンチックなストップモーションアニメ。
アリ・アスターが絶賛していたことで日本でも話題になりましたが、彼の最新作『ボーはおそれている』のアニメーション部分を担当していたのも本作の両監督だそう。
ストップモーションというただでさえ神経症的なアニメーション技法を使用している上に、カメラがぐるぐると回るのに合わせて絵や物が再構築されていくかなり癖の強い撮り方をする作品で、グロテスクな映像と隠喩に満ちたセリフが流れ続け、短い作品の割に結構SAN値持ってかれます。両監督はヤン・シュヴァンクマイエルの影響を強く受けているみたいで好きな人はとことん好きそうな世界観ですが、もし子どもの頃に観ていたら普通にトラウマもんです。
少女が脱走したチリのドイツ人集落というのは元ナチのパウル・シェーファーという人物が設立したコロニア・ディグニダという実在した共同体で、その正体は性的虐待や拷問などが横行していたヤバめのカルト団体です。オオカミとはこの団体の支配者のメタファーであり、この辺の内部事情はエマ・ワトソン主演の映画『コロニア』で嫌というほど詳しく観ることができます。また、この当時はピノチェト政権による独裁政治が行われていたチリにとっては暗黒の時代であり、コロニアはピノチェトに政治犯の拷問施設を提供していたりと、両者は緊密な関係で結ばれていました。何も知らずに見るとなんのこっちゃな気味が悪いだけの作品にとられるかと思いますが、その実は暗い時代の世相を箱庭的に反映した社会派アニメーションです。
近場に上映館がなく見送ったためU-NEXTのレンタルで観ましたがこちらだと20分ほどの解説番組がついていてその辺のチリの歴史とかも含めて実のある話をされているため、一度劇場でご覧になった方も一見の価値ありかと思います。
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