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牧師といのちの崖のmiのレビュー・感想・評価

牧師といのちの崖(2018年製作の映画)
4.0
自身の経験として、取材する側として自殺志願者と対峙したことがある。
その経験を踏まえていると、この作品の熱量と現実の厳しさは余すことなく伝わってくる。
基本的に自殺しようとしてやって来る人たちは、本当は誰かに話を聞いて欲しくて、藤藪さんのような人に助けを求める。
そして保護されてからが大変で、なかなか再び社会に戻れないことが多い。
今作ではその保護された彼らがどうやって生きていくかに焦点を当て、いかにこの活動が難しく、時には報われないことを突きつける。

生きることとは。を考えさせられるドキュメンタリーである。


監督は、師匠であるドキュメンタリー作家佐藤真監督の自殺から、この問題にアプローチするようになったと仰った。
見ていて思ったのは、被写体である元々自殺しようと思っていた彼らとの距離が非常に近いこと。
カメラを彼らは受け入れている。
恐らく共に生活したんじゃなかろうかと思われる。
もしくは、教会にきて長く、平穏を取り戻しつつあったからだろうか。

いずれにせよ、彼らに過去を振り返らせることには常にリスクを孕む。
そこを掘っていく監督の姿勢には覚悟を感じられた。
カメラを向けることへの恐怖と戦ってらしたに違いない。

作中では森くんという一人の男性との向き合いが軸になる。
森くんは自殺しようと思った過去を赤裸々に吐露し、立ち直ろうとしているように見える。
ちゃんと施設の外で働いているし、活き活きした表情で語りかける。
だがしかし、彼は本当の意味で立ち直れていなかった。
人の振る舞いと心のうちは他人では理解しきれない。
牧師もインタビューで「答えは、、、でないです。」と振り絞るように答える。
そう、答えは出ない。それでも続ける。
その支えとなっているのは奥さんである。
常に明るく真摯に、時に悩む夫に友達のように語りかける。「頑張れよ藤藪くん」と笑顔で肩を叩くシーンに涙しそうになった。

かけがえのない存在がいるかどうかは、生きる上でとても重要なのだと深く考えさせられた。


2019劇場鑑賞10本目
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