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ジョジョ・ラビットのEDDIEのレビュー・感想・評価

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)
4.4
第二次世界大戦時のドイツを舞台に、アドルフ・ヒトラーを崇拝する少年の心の成長を描く。洗脳的な盲信も一つ視点を変えれば人間として大切なことに気付けるはず。ユーモア満載に描きながらもとても考えさせられる作品。

トロント国際映画祭観客賞受賞。アカデミー賞でも作品賞、助演女優賞(スカーレット・ヨハンソン)、脚色賞、衣装デザイン賞、美術賞、編集賞の6部門にノミネートされました。
個人的には他の対抗馬と比較して作品賞受賞は難しい気がしますが、紛うことなく傑作でした。それは内容はもちろんのこと、映画としての魅せ方が秀でており、この作品から学べることが多くあったことにあります。

今回主人公のジョジョを演じたのがローマン・グリフィン・デイビス。なかなか主役の決まらないオーディションが、彼の登場により一瞬で決まったという逸話だけでも彼のスター性を感じさせます。ちなみに彼の父は『スリービルボード』で撮影監督をしており、母も脚本家の芸術一家。俳優を志すのも遅かれ早かれ自然な流れだったのでしょうね。

本作において一つ、手放しで絶賛と言いづらいのが当時のナチスの描かれ方にあると思います。正直あんなに生優しいものではなかったはずですし、『帰ってきたヒトラー』や『アイヒマンショー』で描かれたホロコーストの部分はおそらく当時を知る人からすると笑いに変えられるはずもなく。だから、多分本作はそういう批判的な意見も少なからず出てくるとは思います。

ただ、そんな状況を想起させながらも、私としては映画としてとても面白いと思いましたし、10歳の少年の視点で描くエピソードは静かに心の奥底を撫でられているような感覚に陥り、嗚咽するほどの感動はありませんが、自然と涙が頬を伝うような感動を覚えました。

何よりも怖いのはアドルフ・ヒトラーを盲信する少年の存在。子供たちはそうと教え込まれたら、自分たちで判断することができないので、ヒトラー崇拝の空気に触れたらそうせざるを得ないし、人を殺すということも平気で口にできるわけです(子供時代って友達と遊んでて「お前殺す!」とかは冗談半分で言ったりしますが、本作では本気で悪いことだと思わずにそんな発言してるわけです、だから怖いんです)。
『イングロリアスバスターズ』でも描かれた匿われたユダヤ人の殺害など、本作ではこのユダヤ人の少女を人知れず母が匿っているというのが本筋にあります。その少女との交流を通じて、少年ジョジョは今まで信じてきたものの欠陥を感じ、さらにユダヤ人は自分が思っていたような悪魔とは程遠い存在だと気づき始めるのです。

人は自分で目で見て、感じて、それから物事を自分なりに判断して解釈することがとても重要だと再認識させられますね。だけど、彼は子供だからそれがなかなかできないんです。大人から教え込まれた事柄が絶対なんですよね。
だから、彼は少女エルサ(トーマシン・マッケンジー)とのやり取りから自分なりの判断をして人間的に成長していく模様が見えるので、子供の成長譚としても素晴らしい作品だと感じた次第です。

そして、脇を固める俳優陣がいずれも素晴らしい。
ジョジョの母ロージー役のスカーレット・ヨハンソンはナチスドイツの在り方に真っ向から対抗して毅然とした態度で振る舞う母親を見事演じていました。母親として素晴らしいなと思ったのは、ジョジョのナチス思想を決して否定せずに、あくまで親の視点でいいと思うものはきちんと伝えながらも、ジョジョ自身の判断に委ねているところにありました。
『マリッジストーリー』同様、本作ではスカヨハが靴ひもを結んでくれるシーンが出てきます。もはやスカヨハに靴ひもを結んでほしいという野郎共に新たな夢が加わっていくことでしょう(笑)
あとはグレンツェンドルフ大尉を演じたサム・ロックウェルですね。やはり私は彼の演技が大好きですねー。序盤こそ変わり者の異色な存在ながらも、終盤はめちゃくちゃカッコいいところを見せてくれます。いやぁ最後のあれは惚れてまうやろー。

それにしても当時のナチスドイツの本を燃やす行為というのは子供たちの知る権利を奪っており、やはり恐ろしいことだなと感じました。
ネタバレ要素も含むので以下は気を付けていただきたいのですが、とあるセリフがちょっとジョジョという少年にとって可哀想だし、恐ろしいことだなと。

それはジョジョとエルサがユダヤ人について語り合うシーン。
エルサ「ベートーベン、アインシュタイン、バッハ、ガーシュイン、ブラームス、ワグナー、モーツァルト」
ジョジョ「作曲家だけ?」
エルサ「リルケ!」「リルケは母親がユダヤ人」「ディートリッヒ、フーディー二」
ジョジョ「まさかウソだ」
エルサ「ホントよ」「ピサロ、モディリアーニ、マン・レイ、モーゼにキリストもユダヤ人」
ジョジョ「適当に言うな!知らない名前ばっかりだ」

これが本を燃やし、知らないことの恐ろしさ。我々が当たり前に知っていることも、ナチスドイツとは異なる思想であれば燃やしてしまう。

とにかく物事は視野や視点を広げて、自分で判断する力を養う必要がありますね。

映画としての演出で特に印象的だったのは絞首刑台でのワンシーン。ジョジョが悲しみに暮れるシーンでもありますが、子供であるジョジョの視点をそのまま活かし、映画の絵で見せるため余計な説明を省いていました。これが抜群に素晴らしい表現で感動をより一層強く感じることができました。

それにしてもエルサ役のトーマシン・マッケンジーは可愛かったな〜。『キング』にも出演していましたが、今後の活躍にも要注目ですね!

※2020年劇場鑑賞9本目
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