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新聞記者のjohnのレビュー・感想・評価

新聞記者(2019年製作の映画)
3.6
こうして社会に解き放たれた人の目は死んでいく。

学校という籠から出た鳥たちは
実はもっと大きな籠の中に入っていたことを知る。
しかもその籠の形は学校のような綺麗な直方体や円錐ではなく、
もっといびつな形をしていて、
どこからどこまで自分が動き回れるのか見えない。
時にはいつの間にか狭い溝にハマって
身動きが取れなくなってしまうときもある。

学大付属小中高→慶応大法学部→中日新聞の東京本社、関東圏の局、社会部、東京地方検察庁特別捜査部というキャリアで、直近は武器輸出や軍学共同、森友学園、加計学園などの取材を行ってきた望月衣塑子氏の原案の、オリジナルストーリーで描かれる
情熱的な新聞記者とエリート官僚の葛藤を描いた
日本アカデミー賞作品賞、主演男女優賞の
頂点を総なめにした注目作。

邦画サスペンスらしさが前面に出た暗く、重い情景描写が
ひたすら続く先に待ち受ける話題のラストは、
思わず見返したくなってしまう絶妙な演出。
原案者の両親が記者と演劇関係者と知り、
全体的に腹落ちした。
映像作品鑑賞ではなく、仮説・実験・効果測定を綴った
原案者の論文やレポートを読んでいるような感覚。
エンタメ界に敢えてこういう作品をぶち込んでくる姿勢含め、
これはこれで面白いかもしれない。

政治とマスコミの力関係を意識させつつも
余計なプロットが少なくシンプルなので、
情報とはそもそも何のためにあるのか、
と考え込ませるような内容になっている。

外務省、内閣、大学新設、極秘情報、新聞社、編集、軍事
そしてダグウェイを通して、
情報の説得性、組織から個人への権力行使に対する疑問を同調文化の伝統国家体制から炙り出していく。
特に米国で2010年代から多く話題作が輩出されている
政治社会的スクープと真摯に向き合う映画が邦画界にも侵出した
一つのマイルストーンとなった。

シム・ウンギョンと松坂桃李演じる
主人公たちの絶妙な距離感が刺さる。
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