【第95回アカデミー賞 長編アニメ映画賞受賞】
『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ最新作。批評家に大絶賛され、アニメ映画賞のみならず作品賞ノミネートまで噂されている。
これは素晴らしい。ストップモーションアニメとしての技術にまず驚き、そしてピノキオの物語をこう脚色したか!と驚く。さすがデルトロと言うしかない美しく感動的な作品だ。
まず舞台を中世から近代、ムッソリーニ政権下のイタリアにおいたことが深い意味を持つ。後半、普通のピノキオなら謎の笛吹き男に連れられて「遊びの国」でロバに変えられてしまう、というところがムッソリーニ政権下の市長が少年兵育成施設に連れて行くと設定に合わせて変えられている。これは非常に示唆に富んだ上手い脚色。「遊びの国」を兵士育成施設とするのが非常に皮肉であるし、戦争に向けられたデルトロ自身の考えも透けて見える。
舞台設定そのものが大きな意味を持つというのはデルトロの十八番。『パンズ・ラビリンス』『デビルズ・バックボーン』であればスペイン内戦、『シェイプ・オブ・ウォーター』であれば冷戦下のアメリカであった。それが物語の一つの肝でもあったよね。
そして古典的「いい話」に対する疑問とその再解釈。これもデルトロの十八番。『シェイプ・オブ・ウォーター』『ヘルボーイ』あたりはそうだよね。それっていい話って事になってるけど本当にそうなの?と投げかけてくる。
それだけじゃなくてしっかり納得できる解答を出してくるところが素晴らしいんだよね。今回はゼペットが思い描く「カルロの代わり」で本当にいいわけ?ということ。
人間は人形になれないし、人形は人間になれない。カルロはカルロの素晴らしさ、ピノッキオはピノッキオの素晴らしさがある。基本的に人間を信じてつくっているのがデルトロだと思う。人間だけじゃないか。命あるものはすべて美しいという美意識が全体を貫いている。だからこそこんなにもこだわりぬいた美術やビジュアルになるのだと思う。
見事なストップモーション技術は違和感が全くないし、精霊や死神といった超現実的な存在もダークな美しさで描いてみせる。死神の声にティルダ様は納得だし、まさかの猿にケイト様という意外性のあるキャスティングも面白い。ユアン・マクレガー、クリストフ・ヴァルツ、ロン・パールマンという実力派も違和感なくこの世界に調和していた。
紛れもないデルトロ作品であり、ピノキオの再解釈として文句のつけようがない新鮮な作品。アニメ映画賞は絶対にこれでしょう。素晴らしい。