デヒ

行き止まりの世界に生まれてのデヒのレビュー・感想・評価

4.9
映画の主人公3人はいずれも家族からの欠乏を経験したことがあったり経験している。彼らが一緒に楽しむ「スケートボード」は象徴的な意味が込められている。不安定なボードの上で絶えず転ぶ姿は、幼年の痛みと接していて、許されていないところに忍び込んだり、ボードを壊したりする姿は、どうしても現実として、どうしても抜け出したいというあがきに似ている。それに対して成人した青年たちのボードに乗る姿は、まだ不安ながらも柔軟になった姿を見せている。

一児の父となった友人ジャックに、妻のニーナに、厳格な父のもとで暮らし、隠然たる人種差別を経験してきたキイラのことを。 それぞれのドラマを見せながらも、監督は彼らに自分と自分の家族を重ねて映画を撮影していく。監督はキイラに自分を重ねたと直接キイラのいる場所で自分の口で話した。父親が亡くなった後、そっぽを向いたキイラ。 そんなキイラでもインタビューを通じて記憶と向き合い、父親の本心を悟ることができる。亡くなった後一度も訪れたことのない父親の墓地。その前で涙を流していたキイラの姿。その姿が忘れられない。監督はその瞬間、どんなことを考えたのだろうか。
着実に積もっていった感情が爆発する時、監督は自分の母親と向き合う。 ぐっと息が詰まった。さらに、「あなたが幸せでいてほしい」と言う母。撮影を止める監督。この対面は監督にとって良い思い出として残っただろうか。過去の記憶を締めくくる機会になったのだろうか。監督の表情から複合的な感情が伝わってきて、息がぐっと詰まった。

学生作品に間違いないだろうが、3人のことを見せる細かい感情表現とインタビュー能力に驚いた。映画は重いテーマを盛り込んでいながらもユーモア感覚のある、興味を引きつける作品。本当に驚きの連続だった。

大学の実習としてセルフ・ドキュメンタリーを作ろうとした時期がある。先生からセルフ・ドキュメンタリーを作る際に、監督の視点がはっきりしていれば、監督自身が直接登場しなくても、取材対象者に自分を投影させながらも、言いたいことが話せるとアドバイスされたことがある。この映画がその言葉の代表的なガイドブック(手本)ではないだろうか。 本当に良い映画を見たし、教科書として思いながら勉強したいと思った。
デヒ

デヒ