スーパーエイプマン

彼女の権利、彼らの決断のスーパーエイプマンのレビュー・感想・評価

彼女の権利、彼らの決断(2018年製作の映画)
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アメリカにおける中絶が法で認められるべきか、規制されるべきかという議論を追ったドキュメンタリー。

中絶は歴史上常に行われ続けておりアメリカでも例外ではない。
多くの州で禁止されていた時代には非合法、あるいは自主的に中絶が行われていた。無論そのリスクを負っていたのは女性であり、特に貧しい人たち(人種的マイノリティが経済的弱者になりやすい構造にも留意すべき)であった。

社会問題としていくつかの州において合法化が進められる中、決定的だったのは73年の連邦最高裁判決で、これによりすべての州において中絶の権利が憲法上保障されるものとなった。
重要なのはこの時点で中絶の可否は政治問題ではなく、社会問題として捉えられていた点で、個人の身体に対する決定について政府が介入すべきでないというきわめて自由主義的発想から導き出されたわけである。

が、その後主にキリスト教右派が主導した運動が活発化していく。中絶クリニックは襲撃され(!)死者も出るなどし、多くの事務所が閉鎖に追い込まれていく。彼らは中絶というイシューは明らかに通常の医療措置と異なると言う。
今日に至るまで政治問題となっているきっかけは他の多くの政治的争点同様、80年代における宗教右派の勃興がある。
選挙活動戦においてレーガンは福音派有権者の支持を取り付けるために中絶を政治的な争点と捉え、積極的に中絶禁止を政策として打ち出していく。具体的には以降、共和党は最高裁の編成を入れ替えることで最高裁判決を塗り替えようとしていく。この辺り、民意にダイレクトに支えられた行政府の長(アメリカでは議会への不信を大統領に託すという趣が強い)が最高裁判決を妥当でないと発言して、実際に覆すように判事を人選するというのは日本で生まれ育った身としてはすげーなと思ってしまう。

バランスの妙なのか今日に至るまで73年判決は覆ってはいない。が、近年において特に宗教右派の勢力が強い南部において規定はゴリゴリと形骸化させられていき、州によっては中絶可能な病院が1箇所しかない、というところもあるとのことだ。

そんな厳しい状況の中で印象的なのはやはり女性たちで、医学的・科学的見地から理路整然とした意見を述べるRBGはもちろん、テキサス選出の上院議員の13時間水も飲まず立ちっぱなしでカテーテルを挿入しながら話すことで議事進行妨害をするという『スミス都へ行く』ばりのエピソードなんかも凄まじい。

個人的に子宮の中にあるのは人間そのものではないがそれに近いものと考えてしまうし、人の身体についてもそもそもどこまでコントロールがされるべきなのか、という観点が気になりはするのだが、様々な事情を抱えた女性たちが自らの判断で望むのであればそれは何よりも認められるべきだろうとおもう。